2007年WJ30号280話Jugulators2 脳内補完小説です。
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仮初の空の下、藍染はとっくに俺たちに気付いているだろう。 今頃はほくそ笑んでいるのか、キリのいいところで邪魔を入れるつもりか、だがそれでいい。 それでいい。 その余裕が生んだ隙に付け込んで、この黒崎一護を倒せばいいだけの話だ。 砂礫混じりの土煙が奴の姿をかき消し、また風に吹かれて奴から離れていく。見えた奴の顔が、まるで腑抜けた面をしていた。 苛立ちが腹の中でぐいと鎌首を持ち上げた。 ここまで来て、何でコイツは、と心中で呟く。 あの女を助けに来ただと? 笑わせる。 その顔でか。 俺を殺してやろうとする、そんな気配が一片もない間抜けな面を引っさげてか。 ──また一つ苛立ちが沸く。 俺を誰だと思ってやがる。 てめえを殺す男の前で、本気になりもしねェで、それで倒せるとでも思ってんのか。 舐められたもんだぜ。 そこまで考え、黒崎一護をどう挑発してやろうかと見下ろした時、グリムジョーの視界に井上織姫の姿が映った。 自分を見ていた時には怯えたその瞳が、この男と会ってから挑むように強い眼差しに変わり、そして今は、俺を見ることすらしない。 黒崎一護だけを見ている。 その背だけを、不安な様子を必死に隠して、懸命な眼差しを向け、ただ黒崎の背だけを── ──まただ。苛立ちが募る。 中途半端に抗戦する黒崎一護の剣捌きの所為だ。 幾檄を合わせずともそれは頭に浮かんだ。 『こいつは俺と同じだ』 『こいつは俺と同じだ』 俺と同じでなくば、逃げてたはずじゃねェか。 あの女をこの、藍染に支配された世界から連れて逃げようとした筈じゃねェか。 女を見る。 女は俺を見ていない。 黒崎一護の向こうに立っている女を、俺が見ている、ということすらにも気付いていない。 グリムジョーはこの苛立ちを僅かでも発散したい気分に駆られ、舌を打とうとしたがそれを咄嗟に自制した。 そして次に闘いの最中で上手くまとまらない感情に見切りをつけようと、井上織姫から視線を逸らした。 だが、それをした途端、また女を見たい衝動に駆られる。 まただ、また一つ苛立ちが、もう胸のあたりまで湧き上がっている。 何かを叫んで、叫べば楽になるだろうかという気が起きる。 だが何を叫べば良いかがわからない。 方々に散らし、目の前で自分を苛立たせるこの男を影響し、それだけの感情があるにも関わらず、決して口にしてはいけない。 何でだ、とグリムジョーの中にぽつんと疑問が沸いた。 俺はこいつを倒したい、倒して何があるかとか考えるとややこしくなる、ただ単に倒したい、それだけのために今ここに来たんじゃねぇか、あの女をわざわざ連れて、治させて、ウルキオラを反膜の匪に飛ばして、ここまでお膳立てしといて、何を今更俺はたった一言を避けようとしている。 治すことをしたくないと言った。 あぁ、あん時からだ。 あの女も、黒崎一護も俺に従わねェ。 それに苛立ってるだけだ。 他に何もない。 なら何でこの感情を表に出す言葉が出てこない。 やっと状況が整って、この男と全力で戦える時が来たってのによ。 躊躇う理由もねぇじゃねェか。 ぷつりと思考が途切れる。 大抵、こんなふうに結論が導かれる。 それは得てして、元から自分の中にあった感情だからかは知らないが、あぁ、そうかと妙に軽い気持ちで納得させられるだけの結論であって、今までどうしてこれに気付かなかったかという新たな疑問を導く。 つまり、とグリムジョーは一段と冷めた目で黒崎一護を見下ろした。 あの女を何で連れて逃げてやんねェのかってことだろ。 この世界があの女にとって、どういうもんかもわかってねェ。 戦う理由が出来た。 仮初の空であろうと、晴れた空の下、髪をなびかせ俺たちの戦闘を見ている女をもう一度見る。 腹に開いた何もないはずの空間に、小さな痛みが走った気がした。 |
26th/Jun/'07
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