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数分もしないうちに、バスルームのドアが開く音がした。

「あら?父上はもう?」
「ああ、寝た」
「あぁ、お酒を飲んだんですね。
  父上は弱いから・・・」

ワイパーはこれぐらいのアルコール度では全く酔えないとばかりに
一人でまだ飲んでいた。
「何かおつまみを用意しましょうか?」
「いや、いい。お前も座れ」
「はい」

コニスがにこにこ笑いながら、ワイパーの隣に腰掛ける。

「・・・何だ?」

ずっと笑顔のままワイパーを見つめているコニスの視線に気付く。

「ワイパーさんのそういう格好が新鮮で・・・」
ふふっと笑われると、恥ずかしくて顔をあげられない。
なるほど確かに今自分は、生まれて初めて袖を通した空の民の服を身につけている。
それもまた自分に似つかわしくないほどの真っ白な服。
自分に似合っていないのは、バスルームの鏡を見てよくわかっていた。

「でも本当にサイズがちょうどあって良かった」
「俺は別に気にしない・・・」
「・・・え?」
「裸で寝たっていい」
「・・・それは・・・私が気にします。」
彼女はたぶん、また頬を染めて伏し目がちに俯いているのだろう。

その顔が見たくて、ようやく彼女へと顔を向ける。



刹那、ワイパーは息を呑んだ。



お風呂上りで髪を下ろし、白いパジャマを着た彼女に言葉が出ない。

アルコールがまだ残っているのか、お風呂あがりだからか
透き通るような白い肌は、ほのかにピンク色を帯びている。
ごくりと生唾を飲み込んでからなるべく優しい声色で
「触ってもいいか?」と聞いた。

彼女はかすかに微笑んで「ダメと言ったら?」と聞き返す。
「触る」
彼は、迷うことなく答えた。

ふわりと彼女の顔に笑みがこぼれた。
了承のサイン。



おそるおそるその髪に触れた。

洗ったばかりの髪はしっとりとしていて、それでいてさらりと
彼の指の間を通る。

その感覚に彼は酔いしれる。



何度も髪を梳いてから、その一束を手にとり、そっと口付けた。


「何だか恥ずかしい・・・
  ・・・触れられているわけじゃないのに・・・」

声を抑えた彼女の唇に軽くキスをした。






隣の部屋に彼女の父がいる。

今夜はこれだけで我慢するしかない。
そうは思うが、離れがたくて、もう一度唇を落とす。
彼女を強く抱き締めて、深く、ゆっくりと味わうように舌を絡め合う。


これ以上側にいると、きっともっと激しく彼女を求めてしまうから
自分の思いを断ち切るように「寝る」と一言告げて、
ワイパーは席を立った。



「おやすみなさい」とコニスがワイパーに声をかけた。

「あぁ」と軽く返事をして、教えられた部屋に入る。
















・・・・・・・・・・こういうのもいいもんだ・・・・・・・・・・・

彼の心ので、先ほど呟いた自分の言葉が反芻された。

















翌朝。

夜が白む前にコニスと共に家を出た。

パガヤはまだ起きていなかったのだが、コニスは「父上はわかってますから」と言う。

そう言えば、まだ暗い夜明け前の道を彼女は毎日自分の元へと来ていたのだ。
道が整備され、その区域には安全な動物だけが棲息しているだけということは
この一年の調査で皆が知るところではあるのだが、
それでも年若い娘が暗闇の中出歩くことは親として、心配この上ないだろう。
父親に何と言って出て来ていたのだろうか?

いつものように昇る日を見ながら、ふと聞いてみると
コニスは笑顔で「ワイパーさんに会いにと言ってましたよ」と
こともなげに言った。



自分がコニスへの気持ちを自覚していない頃から
コニスが自分への気持ちを育んでいたことを知って
いじらしく思う。
その日の朝日を見て、誓う。
彼女を一生大切にしていくことが、自分への使命なのだと。


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