全作品リスト>麦わらクラブメニュー>麦わらクラブ依頼ファイル1:過去にとらわれた少女
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15 作戦会議




海から帰った後、彼らの生活はまたいつものように騒がしく、それでいて平穏だった。

ルフィが補習を終えたことで、ナミは一日中家で騒がれるのではないかと心配していたが、当のルフィが家の中でじっとしているわけもなく、ふらりとどこかへ出かけては、喧嘩したなどと言って、生傷だらけで帰ってきた。
それはそれでナミは気苦労を負わされたのだが、チョッパーが言った通り、ルフィの腕っぷしは相当のようで、少々の擦り傷はあるものの、いつも笑顔で「勝ったぞ!」と笑うのだった。

「ルフィ、明日は金曜日だから出歩くんじゃねーぞ」

木曜日の夕食中のことである。
ウソップが今日もまたケンカで勝ったと語るルフィに、そう念を押した。

「お前は、先週学校に行ってていまいち実感持ってねぇかもしれねぇけどな
 あの犯人、お前がいつもケンカするような相手よりも強いかもしれねぇんだ。
 特に俺とチョッパーは見張り役で、顔も覚えられてるし・・・」
「なんだ、ウソップ。怖いのか?」
「あーそうだよっ!俺は怖いんだっ!悪いか!!」
テーブルをバンバン叩いて、ウソップが逆ギレする。

「でも、ルフィ。俺もちょっと怖い。
 何て言うか、あの犯人・・・すごく怖かった」
実際に、犯人によって傷つけられたチョッパーは肩を竦めて、顔を青くしたまま言った。
「強いからとかじゃねぇぞ。
 強いだけなら、ルフィも強いもんな。
 でも、そういうのじゃなくって・・・」
言葉をうまく紡ぐことができないらしい。
チョッパーは黙り込んでしまった。

「大丈夫だって、チョッパー!
 明日は俺ずっと家にいてやるからさっ」
ルフィがチョッパーの頭をポンポンと叩いて笑う。
ほっとしたように、チョッパーが笑ってまた食事を口に運び始めた。

「それにしても・・・ナミの奴出てこねぇな」
ウソップの視線は、その閉ざされた扉を見ていた。

金曜日が近づくにつれ、段々ナミの顔に翳りが生まれていることは、皆が気付いていた。
サンジなどは時間ができればナミに話し掛けたり、冗談を言って気を紛らわせたりしていたが、どれも功を奏さなかった。
そして今夜になって、ナミは自室に閉じこもってしまった。
ご飯の用意ができたとウソップが声を掛けてみたが、ナミは「食欲ない」とだけ返事して、決してその姿を現そうとしない。

「仕方ないよウソップ。
 ナミが一番怖いはずだから」
チョッパーもその開かない戸を凝視しながら、呟くようにそう言った。

「まぁそりゃそうだろうけどな」
ウソップが、諦めたように息を吐いた。
「なぁゾロ、お前は仕事どうなんだ?」
ご飯のお代わりを自分でよそうゾロに、ウソップが尋ねる。
「俺か?今日入って、明日と明後日が休みだったかな」
「じゃあ、明日はまた寝てるか・・・
 サンジは休むとか言ってたから、できれば全員揃ってれば心強ぇんだけどなぁ」
はぁとウソップが溜息をついた。

「明日の見張りはどうするんだ?」
チョッパーが聞く。
先週、自分とウソップという所謂戦闘要員ではない二人が危険に晒されたからであろう。

「そりゃサンジとルフィだな」
危険を察したウソップは、既に決めていたことらしい。すぐに答える。
ルフィは、任せろと言いたいのだろうが、うんうん、と頷きながら口に入った物を租借して喉を詰まらせる。
「先週は、結局犯人がいつ入ってきたのかがわからなかっただろ。
 それでな、ゾロが言ったことを思い出して
 このマンションの周りを調べてみたら、一つだけあったんだよ」
「俺が?何か言ってたか?」
席についたゾロが聞く。
「覚えてねぇのか?まぁいいか。
 このマンション、エントランスの横に駐輪場と非常口があるから、
 この俺様もてっきりそこだけ見張ってればいいと思ってたんだがな。
 一つだけ、あるんだよ。鍵がなくてもこのマンションに入れる道が」
そう言って、ウソップは用意していたのか、ホワイトボードを取り出して図を見せた。

このGMパレスは、図にしてみれば長方形になっている。
ボードには、長方形がいくつかの線で区切られた図が描かれていた。

「このマンションはな、エントランスがここ。南側だろ?
 で、北側に廊下があるわけだが、一階は駐輪場だから、実際には壁で塞がれてて
 ここから入れるわけがない・・・と」
キュッキュッと、ホワイトボードに、エントランス、階段、と説明書きを加える。
「そこでだ。このキャプテン・ウソップ様が目に付けたのはここだ!」

そう言って、ウソップが手に持ったマーカーで一点を差した。
方角で言えば東側だろう。西側に位置するナミの901号室とは反対側のその部分に廊下と同じ幅の丸い半円が突出しており、放射状に線が引かれている。
皆がそれを見て不思議そうな顔をする。
「ウソップ、そりゃ何だ?」
「おいルフィ、こりゃ便所じゃねーか?」
「てめぇら、マンション内でも迷子になりてーのかっ!
 こりゃ非常階段だっ!!」
ウソップが目を吊り上げて叫ぶ。
「ああ、非常階段か。こんなとこにあったんだな」
「ゾロ・・・お前、この部屋出てエレベーターへ向う時、
廊下の一番端が目に入ってなかったのか・・・?」
ウソップは、は〜と大仰な溜息をつく。
GMパレスの部屋は、各階9号室まで。
実際に「4号室」は存在していないので、部屋は8部屋しかない。
ナミの家はベランダを広く取っているため、3LDKだが、その他の部屋は4LDKらしい。
そのため、廊下の端にあるナミの部屋から、その非常階段までは遠いには違いないが、見えないこともない。

「お前らと話してると、頭が痛くなってくるぜ・・・ったく」
「ウソップ、チョッパーに薬もらえよ!」
「お前が元凶なんだよっ!!」
ウソップがルフィの首を締め上げてから、椅子にまた腰をおろす。
「とにかくだな。
 この非常階段が突き出てるだろ?
 で、その隣だ。5階建てのビルがあるじゃねぇか」
そう言って、GMパレスの横に、四角を描き足す。

「犯人はここから飛び移ってくるんじゃねぇかと思ってな」
3人がテーブルの上に乗せられたホワイトボードを、頭を寄せて見つめた。
「隣って・・・オフィスビルじゃないの?
 ベランダとかもなかった気がする・・・
 ウソップ、どうやって飛び移るんだよ」
チョッパーが不思議そうな顔でウソップに尋ねる。
「・・・屋上か」
その問いに答えたのは、顎に手を当てて考えていたゾロだった。

「お、屋上・・・!?いくら何でも・・・」
驚くチョッパーに、ウソップがちっちっちと舌を鳴らす。
「チョッパー、そうでもないぜ?
 世の中にはな、俺たちみたいに
 高いところで隣のビルに飛び移ると言う行為を怖れる真っ当な人間と
 そうでない人間の二種類が存在する。
 なぁルフィ、ゾロ。お前らは、不可能だと思うか?
 その幅、およそ1m50なんだがな」
「俺はできるぞっ!」
「簡単だな」
二人は考える間もなく、大きく頷いた。

ほらな、というように、ウソップが両手をあげて首を振った。
チョッパーは、「すげーすげー」と何が嬉しいのか、喜びの声をあげる。

「という事は、明日はここを見張るのか?」
そう言いながら、ゾロがグラスに残った最後の酒を一気に飲み干した。

「ああ。サンジがここ。
 エントランスも一応見張るために、このマンションとビルの間を
 道の反対側から見張ってもらう。
 ルフィ、お前はこの階の非常階段で待機だな。
 たまに隣のビルの屋上をチェックして、不審人物がいないか確認しろよ」
「何か、つまらなさそうだなー」
「馬鹿、お前!ここが一番重要ポイントなんだぞ!」
「そうなのか?じゃ、俺ここがいいな」
「だから、ここはお前に任せるっつってるだろーがよっ!!」
ウソップは渾身の力を込めて、ルフィの額にチョップを繰り出した。

「それでだな、チョッパー。
 お前にはナミの護衛を任せる!
 一番危険な任務だが、寝てはいるけど一応ゾロもいるし・・・」
「一応って何だよ、オイ」
「まぁまぁ怒るなよ。できるか?チョッパー」
「お、おぅ!俺頑張るよっ!!」
「ウソップは何するんだ?」
ルフィが赤くなった顔をさすりながら言う。
「俺か?俺様はな、待機だ」

3人の冷たい視線を浴びて、ウソップが懸命に言い訳した。
「ななななんだよっ!
 俺はもう既に任務を終えたんだっ!」
「任務?ウソップ、何をしたの?」
「チョッパー、よくぞ聞いてくれたな。
 見よ!この俺様の新発明をっ!!」

コロン・・・とポケットから出された米粒大の機械がいくつかテーブルの上に転がる。

「・・・何だぁ?こりゃ・・・」
ゾロがその一つを手に取って、眺めようとすると、その機械がクシャッとつぶれてしまった。
「ゾロー!何てことするんだー!!」
ゾロの頬にパンチを繰り出して、「ああまた徹夜で作りなおさなきゃ・・・」とウソップは、散らばった部品を集め始めた。

「これ、何だ?」
ルフィがつんつんと指でその機械をつついた。


「これぁな。遠隔操作で爆発する爆弾だよ」
「「「爆弾??」」」

「まぁ威力は小さいけどな。
 これをパチンコの玉の中に入れるんだ。
 で、パチンコの取っ手部分にスイッチを仕込んである。
 相手に玉が当たった瞬間に、スイッチを入れると玉が爆発する。
 俺様が作った【火薬星】だ!
 苦労したぜ?相手に多少のショックを与えて
 なおかつ爆発し過ぎないようにしなきゃいけないからな。
 さらに、周りを覆う鉛の厚さも考慮してだな・・・」

「チョッパー、さっきのウソップの言葉覚えてるか?」
ゾロが立ち上がって、チョッパーに顔を向けずに突然言葉を掛けた。
「え?」
「世の中に二種類人間がいるって、ウソップが言っただろ」
「・・・あ、うん」
「ありゃな、間違いだ。
 世の中にはヤバイ人間と、ヤバくない人間の二種類がいるんだ」
その瞳は、ウソップを見つめている。

「おいっ!俺を危険人物扱いすんなっ!!」
ウソップが後ろから叫んだ声が聞こえないかのように、ゾロはすたすた歩いてナミの部屋の前に立った。

「俺は仮眠する。あんまうるさくすんなよ」
振り向いて言うゾロに、ウソップは呆気に取られた。

「ゾロ、今日もそこで寝るつもりなのか?」
「あぁ。ナミがそう言ったんだからな」
「今日は無理じゃねぇか・・・だって・・・」
「ウソップ、大丈夫だって。見てろよ」
そう言って、ルフィがウソップの服の裾を引っ張った。

ゾロは、ノックもせずにその扉を開けて、ふぁと大きな欠伸をしながら、部屋へと入って行った。

チョッパーとウソップが心配そうに扉が閉じられていくのを食い入るように見ている横で、ルフィは嬉しそうに笑っていた。

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