全作品リスト>麦わらクラブメニュー>麦わらクラブ依頼ファイル1:過去にとらわれた少女
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2 ルフィ



その日は一学期の終業式だったので、お昼の頃に各々の生徒が夏休みの予定などを話しながら下校し始めた。
ナミは、一度生徒会室に行って私物を取ってから帰ろうと、自分の教室がある4階から、生徒会室のある3階への階段を降りていた。
その時、馴染みのある声がナミの名を呼んだ。

「ナミさん、ここにいたんですね」
「ビビ。そんなに急いでどうしたの?」

ビビは、階段を駆け上がったために乱れた呼吸を整えようとしばらく胸に手を当てて、肩で息をする。
「ど、どうって・・・・ほら、相談するって言ってたじゃないですか」

(・・・・すっかり忘れてたわ。ビビったら覚えてたのね・・・)
ナミは、しばらく考えてから、朝ビビとした口約束を思い出した。
けれども、忘れていたことなどおくびにも出さず、いつもの笑顔で言った。

「ええ。先に、生徒会室に置いてある私物を取ってこようと思って」
「ダメなんです。ルフィさん帰っちゃいます!
 彼、本当に食いしん坊だから・・・いつもそうなんです。
 でも今、職員室でシャンクス先生と話してたから
 まだ間に合いますよっ!」
そう言うが早いか、ビビはナミの手を取って、職員室へと走り出した。

「ちょ・・・ビビっ!」

このお嬢さまは、一度こうと決めると突っ走るタイプなのを忘れていた・・・
あの二人に関わったって、ろくなことにならない気がして、ナミは大きくため息をついた。



「えっと・・・あ、いたいた。ルフィさん!」

名前を呼ばれて、黒髪の少年が振り返る。
大きな瞳がビビの姿を認めて、左頬の傷跡が笑みでその曲線の形を変えた。

「あ〜ん?2年のビビちゃんじゃねぇか。
 お前いつ手ぇ出した?」

ルフィの前でだるそうに座っていた赤髪の教師が口の端をあげて笑った。

「失礼します。シャンクス先生。もうルフィさんとのお話は終わりました?」
「いーや、まだだね。ビビちゃんからも言ってくれよ。
 こいつの1学期の成績がそりゃもう惨憺たるもんでさ。
 今週いっぱい、補習受けろって言ってんのに、出たくねぇつーんだ」

まったくお前はなぁ・・・と、シャンクスは手に持っていた出席簿でルフィの頭を軽く叩く。

「だってよー。何で夏休みなのに、学校来なきゃなんねんだよー」
ルフィが、拗ねたように口をとがらせて、叩かれた頭をがしがし掻いた。
「そりゃお前が招いた結果だ。とにかく、これが補習の日程表だ。
 なくすんじゃねぇぞ?」

シャンクスはこともなげに言い放って、一枚のプリントをルフィに手渡した。

「さて、このトントンチキの説教も終わったことだし
 ビビちゃん、生徒と教師の交流を深めるために
 食事でも一緒にどうだい?」

「おごりかっ!?なら俺も行く!」

「お前はいらん。どうビビちゃん?」

こんなシャンクスの軽いノリは、一部の女子に人気があった。
ただ、それでも浮いた噂一つないのは、彼のその生真面目さ故だろう。

「え・・・あの・・・?」
「こんにちは。シャンクス先生」
ビビの後ろから、ナミがぴょこっと顔を出す。
「・・・おっ・・・ナミもいたのか・・・」
途端にシャンクスは勢いなくして笑顔を引き攣らせた。

「先生、ご飯おごるような余裕があるんですね。ふぅん・・・」
「いや、その・・・ナミ、お前目が笑ってないぞ」
「そうですか?」

口元に笑みを浮かべてはいるが、ナミの目は笑ってなかった。
急にしおらしくなったシャンクスの姿を見て、ルフィもビビも一体何があるのかと不思議そうに見ている。

「お前なぁ、頼むから職員室でそういう態度取るなよ。なっ・・・」
「あら、そういう態度ってどういう態度かしら?
 ・・・約束の期限まで、あと10日ということ、お忘れなく。
 さ、ビビ。帰るわよ。」

「約束の期限って何だ?シャンクス」

「あんたも帰るのよっ!」

ナミはルフィの後頭部にゲンコツをくらわせて、その体を引きずるように職員室を後にした。






「こちら、ナミさん」

3人は、駅前のファーストフード店に入り、昼食を食べながらビビを仲介してようやく自己紹介をした。

「生徒会長さんよ。ルフィさんも知ってるでしょ?」

「ん〜」バーガーを口いっぱいに入れて、ルフィが首を傾げる。

「あ、見たことあるぞ。そのみかん頭」
ナミは、公衆の面前ということもあって拳を机の下でぎゅっと握り締め、感情を押し殺した。

(・・・・こいつ、馬鹿だわ・・・)

「お前、あのシャンクスをびびらせるなんてすごいなー。強いなー。
 俺の仲間になんねぇか?」

「・・・仲間?」

「ああ、今探してるんだ」

「・・・あんたの仲間にはなりませんけどね。
 私が今日、ここにいるのは、あんた達が人助けしてるってビビに聞いたからよ」

「あと一人か二人は欲しいんだよなぁ。どうだ。お前みたいに強い奴、俺は好きだぞ!」

「聞きなさいよっ!人の話を!!」

ナミがテーブルをバンッと叩く。
ビビは、何となく想像していた通りの二人の会話に、くすくす笑っているばかりで助け舟を出そうなんて気はさらさらないらしい。
黒髪の少年は、そんなナミに構わず、話を続けた。

「だって、生徒会長してたら頭もいいんだろ?
 そういう奴いた方が、助かるんだってウソップも言ってたぜ。
 お前やりたくねぇのか?」

「やりたいもやりたくないも、何の話してるかさっぱりわからないわよ。
 それより、私がここにいるのは・・・」

「何の話って、仲間になれって言ってるんだ」

「だーかーらっ!何で私があんたの仲間とやらにならなきゃいけないのよ?」

「俺、兄貴の会社で働きたかったんだけどさ。
 でも、兄貴が全然認めてくれないんだ。
 で、そんなにやりてぇなら、自分で何でも屋クラブでも発足しろって言うから・・・」

「そうそう、それで、その新しい部を作りたいと言って
 相談されて、私とルフィさんはお友達になったんです」

ビビが、さらりと彼らと親しくなったきっかけを話す。

「はぁ?ビビ、こんな得体の知れない連中の言葉を鵜呑みにしてるの?
 ダメよ、絶対ダメ。こんな奴らが作る部なんて、ろくなもんじゃないわ」

「だから、まだ人が集まってませんから・・・
 どうしたら新しいクラブを作ることができるかって、相談を受けたんです」



「・・・・言いたいことはたくさんあるけど・・・まぁいいわ・・・
 とにかくね、私はあなたの仲間にはなりません。
 大体、部を作るためには最低5人の部員が必要なのよ?」

「ああ、だからもう学校で作るのはやめたんだ!」

「・・・あら、随分あっさり諦めるじゃない」

「だって、学校の部活だったら、学校でしかできねぇじゃんか。」

「ごもっとも。でも、校外活動をしてどうするのよ。
 自分たちで稼がなきゃいけないし、
 うちの高校はバイト禁止よ?お金を儲けちゃいけないの。
 元生徒会長として、見逃せないわね」

にししっとルフィが笑った。

「金取るつもりなんかねぇよ。
 俺はただ困ってる奴を助けるんだ!」

ナミは、自分の理屈が通じないこの少年に大きなため息が出た。

「あんたねぇ。世の中お金なの。
 お金がなかったら、何にも動けないし、人助けだってできないわよ?」

「えっそうなのか?」

「当たり前じゃないの・・・」

そんなことも考えてなかったのか・・・と白い目でルフィを見る。
ルフィは、さも困った顔をしてう〜んと唸った。

「どうすればいいんだ?」

「だーかーら。あんた達が稼げないんだから
 そのお兄さんの会社手伝うだけにしとけばいいじゃないの」

「だって、エースが駄目って言うんだ」

「じゃあ、駄目ね。諦めなさい。
 せいぜい、サークル活動に留めとくのね。
 会費ぐらい、お小遣いから出せるでしょ」

「おお、いいアイディアだな!
 で、会費って・・・いくらだ?」

「そんなの、サークルの規模にもよるし、 どこの施設を借りて、活動をするかにもよるわよ。
 大体、あんた人助けしたいって言うけどあんたに助けられたいって人が現れなかったら
 そんなサークル作っても、意味がないじゃない」

「あるぞ!今だって、やってるんだ」

「あら、そうなの?」

「おう!俺らを頼る人を放ってはおけないからな!」

「ふぅん。やる時はやるってわけ。一体どんなことしてるのよ?」

「犬の散歩だ」

ルフィが、自慢気に胸を反らした。

(・・・まあ、それもある意味人助けよね・・・)

「お前ももう仲間だから、明日からポチ担当だな」
「やらないって言ってるでしょ!!」

ナミは肩を大きく動かして、嘆息をついて、しばし考えこんでしまった。

・・・・まったく。
ビビは、一体どこをどう見て、こんな奴が私の悩み解決できると思ったんだろうか。
こんな甘い考えで、しかも傲慢な奴、生まれて初めて会ったわ。

けれどもその時、ナミの頭にある一つの考えが浮んだ。

「・・・そうね。そんなに言うなら、仲間になってもいいわ」
目がきらりと意味深に輝く。

「おう!お前も麦わらクラブに入りたくなったか?」
「む、麦わらクラブ・・・?」
その名称に、頭がクラッとするが、気を取り直して続ける。

「・・・まぁいいわ。
 私を仲間に入れたいって言うなら、一つ条件があるの。
 今、私が抱えている問題を解決してくれる?
 それがうまくいったら、その時はあなた達の仲間になってあげてもいいわよ」
「おお、任せろ!」


話も聞かずに太鼓判を押したルフィを見て、ナミは心の中で呟いた。

(解決したら、ラッキーよね。この子も、世間の荒波を知るいい経験よ)


そんな二人のやり取りを、ビビはにこにこ笑って聞いていた。




このバーガーショップでは話をしずらいとナミが言い出して、場所を替えることにした。
ビビは、二人の話がまとまったところで、じゃあこれで・・・と早々に帰宅してしまった。

「さて・・・」
ゴミをゴミ箱に捨てて、店を出てから先に口を開いたのはナミだった。
「どこで話をしようかしら。あんた達の家の方がいい?」
「俺んちは母ちゃんが友達呼ぶなって言うしなぁ。
 いつもなら、ウソップんちに行くんだけど、最近ウソップの父ちゃん、うるせぇんだ。
 サンジの家はすんげー怖いじいちゃんがいるしチョッパーの家も、鬼婆がいるんだ」
「何よ、じゃああんた達いつもどこで集まってんの?」
「公園」

「こ・・・っ!」

・・・さすがよね。いいわ、段々慣れてきた。

「・・・そ、そう。
 でも、今日は私がいるんだからね。
 そんな夜風に晒されるような場所で話をするわけにはいかないわ。
 みんなが揃うのは、夜なんでしょ?」
「んー。そうだなぁ。今日は、あと一人仲間にするんだ。
 お前も仲間になったし、今日はいい日だなぁ!」
にししっとルフィは白い歯を見せて笑った。

「まだ、仲間になるって決まったわけじゃないわよ?あんた達の働き次第ね」
「俺たちは強いぞー」
「ま、期待しとくわ」
「お前も強いからな!絶対仲間にするぞ!!」
「はいはい。せいぜい頑張ってちょうだい。
 とにかく、今日はしょうがないから、私の家に呼んであげる。
 一人暮らししてる私に感謝しなさいよね!
 私の家の地図と・・・これがケータイの番号。
 来る前にちゃんと連絡してから来なさいよ」
「何だ?お前、エロイ雑誌隠すの・・・」
ルフィの顔面にナミの鞄が容赦なく叩き付けられて、ルフィの言葉が遮られた。

「ってー。やっぱナミは強ぇな!
 なぁ、シャンクスにどうやって勝ったんだ?」
めげずに、ルフィが興味津々という態でナミに聞く。

「勝った負けたじゃないわよ。
 ちょっとお金を貸してるの。
 あの先生、パチンコ好きで、万年金欠なのよ。
 それを知ったこの優しいナミちゃんが救いの手を差し伸べたのよ」
「へぇ。ナミは金持ちなのか?」
「・・・まぁあんたよりはあるかもね」

少し口篭もってそう言った後、ナミは黙り込んでしまった。

ルフィはそれに気付いていないようで、鼻歌を歌いながらしばらくナミの後をついてきたが、「じゃあ俺こっち行くから」と曲がり角で別れを告げた。

その背中を見送って、ナミは一気に疲労を感じていた。

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