全作品リスト>麦わらクラブメニュー>麦わらクラブ依頼ファイル1:過去にとらわれた少女
PAGES→
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33



21 ジョニーとヨサク




ルフィ達が獲得したアイテムをテーブルの上に揃えて、ナミは瞳を輝かせた。

「入浴剤、いいわね〜。
 本当は欲しかったけど買うと高くつくから諦めてたのよ。
 今日の夜はこれでゆっくりお風呂に入れるわ♪
 ああ、でも今日すぐに使っちゃうのももったいないわね・・・
 いつ使うべきかしら?」
「商品券1万ベリー・・・やったわルフィ!
 これで、あんたに美味しいもの買ってあげるわね!」
「温泉旅行・・・・どこかしら?アラバスタじゃないっ!
 このホテル、今年オープンしたばかりよ。
 すごいわールフィ♪
 あんたもやる時はやるんじゃない!!」

こんなにも瞳を輝かせるナミは初めてで、ウソップとチョッパーは唖然としてしまった。
「無料で手に入ったってのがミソなんだろうな、きっと・・・」
ウソップが、呆れ声でチョッパーにそう囁くと、栗色の髪の少年も無言で頷いた。

「ナミさ〜ん。温泉旅行なら是非俺にお供させて・・・」
「駄目駄目。もう行く相手は決まってるの」
ナミはあっさりと断る。
「しょんな〜」ハンカチを噛んで、サンジが涙を流した。

「ルフィ、本当にありがとう!」
「おう!なぁナミ、これで夏祭り行ってもいいだろ?」
「もちろんよ。ルフィを信じて、もうビビも誘ってあるの。
 大勢の方が楽しいでしょ?」
「おお〜気が利くなっ!」
「でしょ?夏祭りは5時からだけど、ビビとコーザ先生が
 4時ごろ家に来るって言うから、それまでにやること済ませてね」
夏祭りを切望していた3人が、勢い良く手を上げて「お〜!」と返事した。

「夏祭りに行くのか?」
一人睡眠を貪って、成行きを目にしていなかったゾロが遅い昼食を取りながら、彼らに尋ねる。
「おぅゾロ!ナミが行ってもいいって言ったんだ!」
「ルフィが特等当てたんだぜっ!いやぁこれも俺様が渡した金運招き猫のおかげで・・・」
「すごかったんだぞっ!特等が当たった時に、見てた周りの人も一緒に喜んでくれて・・・」

「おい、いっぺんに話し掛けられてもわかんねぇよ」
「だから、とにかく夏祭りに行けることになったんだ!」
ルフィが満面の笑顔でゾロに飛びついた。
嬉しさのあまり興奮したウソップとチョッパーも逞しい彼の体にぶら下がるように飛びつく。
離れろっとゾロがいくら叫んでも、彼らはゾロの髪をくしゃくしゃしたり、腕を取って振り回したりとしばらく彼を使って喜びを表現していた。

夏祭りのために、ウソップは急いで作りかけの機器を仕上げると言って、サンジが淹れたコーヒーを手に部屋に篭った。
ナミは、チョッパーとルフィの夏休みの宿題を見ている。
サンジは「今日は夕飯作らなくていいからな」と、その分オヤツに手を掛けるつもりらしく、キッチンで口笛吹きながら、この家に甘い香りを漂わせていた。
ゾロは、そんな皆の様子を目を細めて見ていたが、その内くぁっと大きな欠伸をして、ソファで眠りについた。



約束の4時よりも大分早く、サンジが時間をかけて作ったティラミスケーキとカシスリキュールの掛かったバニラアイスを全員で頬張っている時、インターフォンが鳴った。
「まだ3時・・・よね?」
ナミが訝しんで時計を確認する。
通話ボタンを押して映し出された画面には、人相の悪い二人の男が立っていた。
「・・・どちら様?」
警戒心を顕にした低い声で、ナミが応対した。
『へぇ。あっしはジョニーと申しやす』
『手前はヨサクです、以後よろしゅう!』
インターフォンから大きな自己紹介の声が漏れる。
紅茶の準備を揃えたトレイを持ったまま、サンジもその画面を凝視する。
ジョニーと名乗った男はサングラスをかけ、ヨサクと名乗った男は剣呑な目付きをしている。
「誰だぁ?テメェら」

「そいつら俺の後輩だ。入れてやってくれ」
特別多めにカシスが掛けられたアイスを食べながら、ゾロが言った。
「クソマリモの後輩?!」

一匹狼という印象を身に纏わせる彼の知り合い、到底想像できなかった人物の出現にサンジは首を捻った。



「これは、姐さん、どうもお邪魔いたしやす」
「失礼します」
礼儀正しいのかどうかよくわからないが、姐さんと呼ばれたナミは「そんな呼び方しないでよ」と一喝してから、彼らをダイニングへと案内した。
残っていたケーキとアイスをサンジが用意すると、彼らは相好を崩して美味い美味いとあっという間にそれをたいらげてしまった。

「・・・で、ゾロの後輩なんだって?」
食べ終わって食後の紅茶ですっかり寛いでる二人を横目で見ながら、ナミは未だ不審人物を見るような目つきで頬杖ついたままつっけんどんに聞いた。
「へぇ。あっしらは、ゾロの兄貴と高校で世話になりやして」
「グランドライン大学附属高校なんすけどね」
「附属高校?何よ、ゾロ。あんたお坊ちゃまだったの!?」

その高校は、グランドライン市周辺でも屈指の難関大学であるグラインドライン大学附属の学校だ。
幼稚園からのエスカレーター式で、大学まで行けるというシステムと、全寮制で生徒の生活全て管理するということから、名家の令嬢子息が通う高校でもある。
公立高校ではナミ達の通うイーストブルー高校がその自由な校風とある程度の偏差値の高さから、生徒からは人気があるのだが、私立高校でのトップのそのグランドライン大附属高校が親の層で人気を博しており、グランドライン市の数ある高等学校の中でツートップとして君臨しているのだ。

「・・・親が海外赴任になったから、仕方なく入れられたんだよ」
ゾロは素っ気無く答える。
「あんた、頭が良かったのねぇ・・・」
「自慢じゃねぇが、悪い。
 スポーツ推薦で高校から入ったからな」
そう言えば、コーザに聞いたゾロの遍歴は確かに数年間全国トップの座を守り続けるという輝かしいものだった。
なるほどね、と納得する。
「あんなとこ、馬鹿の集まりだ」
思い出したくもない、というようにゾロが呟いた。

「まぁ確かに・・・あんたには合わないかもね」

ナミは生徒会長をしている時に、度々他校の生徒会役員と話す機会があった。
それは、大抵部活の練習試合であるとか、校外ボランティア活動を合同で行うという話し合いなのだが、附属高の彼らはエリート意識が強くて、鼻持ちならない、とナミも苦手意識を感じたことがあるのだ。
ゾロなら尚更、そんな校風を気に入るわけがない。

「あっしらもね、高校から途中編入組なんすよ」
「同じく剣道の推薦です」
「でも、編入組に待ってるのはイジメばかりでね」
「あっしらもそれに屈せずやってたんすが・・・」
「シカトにカツアゲ・・・もう二人で退学を覚悟した時に」
「ゾロの兄貴に声を掛けてもらいやしてね」
交互に説明する二人によると、ゾロは編入組の中でも、その傲岸極まる態度からか、またその態度を裏づけする実力からか、他の生徒からは関わらないほうが良いと思われていたのだろう、孤高の存在であった。
ある日、体育館の裏でいじける一年生のジョニーとヨサクに、剣道部の先輩であるゾロが突然「ついてこい」と声を掛けた。
それまで目付きの鋭いその二年生の先輩を恐れて、寄り付かなかった二人は、この人も自分たちをカツアゲしようとしているのではないかと戦々恐々として、それでもその言葉に従って彼についていった。
すると、ゾロは剣道部内で彼らをいじめていた2年生を見つけるなり殴り飛ばし、ジョニーとヨサクに頭を下げさせた。
「お前らも男なら、これからは自分でやり返せ」と言ったゾロに彼らはすっかり懐いてしまい、ゾロを慕い続けているのである。
「あっしらはゾロ先輩のように、男の中の男になりたいんでさぁ」
二人が声を揃えてゾロを褒め称える。
ゾロは所在無さげに、舌打ちした。

「お前ら、昔話するためにここに呼んだんじゃねぇぞ」
留めなければまだゾロの武勇伝を語ろうとする二人に、ゾロが口を挟む。
「頼んでたアレはわかったのか」

「あっはい!」
ジョニーが、ポケットから一枚の紙を取り出す。
「これが、今アーロンが拠点にしてる所っす」

皆が、その言葉を受けて、テーブルに駆け寄る。

そこには、市内のいくつかの住所が書かれている。
「と言っても、1ヶ月前に奴と取引したってバイヤーからの話なんですがね
 奴ぁ曜日ごとにころころ拠点を変えるらしいんす。
 一番上が週末。月・火・水が二番目の住所。
 三番目が木・金の住処ってわけでさ。
 用心深い奴ですからね、この住所もいつ変わることやら」
言われて、皆が得心する。
金曜日にアーロンがいるという住所は、このマンションと同じ町内だ。
この情報の信憑性はそれだけで高まる。
「わざわざ悪かったな。ありがとよ」
「兄貴の頼みごとなら断れませんよ」
「そうそう、兄貴の役に立つことができて、あっしらも嬉しい限りでやんす」
ジョニーとヨサクは照れくさそうに肘を小突き合っている。

「なぁなぁ、お前ら何でこんなことわかるんだ?」
ルフィがテーブルに顎をついて、不思議そうに首を傾げた。
「ああ、あっしらは情報屋なんすよ。
 結局、あの高校の雰囲気に慣れなくて、ゾロ先輩と同じく大学へ進まないで
 今はこうして、裏の情報屋として金稼いでるって次第でさ」
「情報屋か〜格好いいな〜」
チョッパーが瞳をパチパチと瞬かせて、感嘆の息を漏らした。
「いや、なんのなんの・・・
 それにしても、兄貴、またアーロンと何かあったんすか?」

ヨサクの言葉に、ナミが反応した。
「・・・また?」
「あれ、姐さんご存知ないんで?
 ゾロの兄貴は去年アイツが・・・」
「ヨサク!」

普段滅多に感情を顕にしないゾロの怒気を孕んだ叫びに、皆がぎょっとした。

「・・・こいつらには関係ねぇ」
ゾロはそう言って、ぷいっと顔を背けて、「寝る」と言ってナミの部屋へと向った。
「ちょっと、何で人の部屋で寝ようとしてんのよ。
 和室が空いてるでしょ?」
「こんだけうるさかったら、寝れねぇからな」

そう言って、彼はナミの制止も聞かずに部屋に入ってドアを閉めた。

「・・・怒ってたな」ジョニーがヨサクに言う。
「ああ、ヤバイこと言ったかも・・・」ヨサクも冷や汗を流して、肩を奮わせた。

「ねぇ、何の話なの?
 アーロンとゾロの間に何があったのよ?」
ナミが問い詰めようとしても、彼らは「これ以上言ったら、兄貴に殺されやす」と言って、決して口を割ろうとしない。

「そんな怖がらなくても・・・」
頑なに口を閉ざす二人を見て、ナミが呆れたように苦笑すると、ジョニーが言う。
「姐さんは、ゾロの兄貴の昔を知らないからそう言えるんで・・・」
「そうそう、ゾロの兄貴を怒らせて、無事に済んだ奴なんて見たことねぇ」
「と言っても、兄貴のすごいところは、悪人成敗のためにその力を使うというとこなんすけど」
「カツアゲに、イジメに、リンチに、あと・・・」
はっとして、ヨサクが慌てて口を手を当てた。

「何よ?また、だんまりなの?」
「これは、一年前のことに関係してやすから」
「ふぅん、一年前にアーロンと何かあったのね。
 何よ、麻薬の売買をしてたとか?」
「そっ・・・そんなこと、兄貴がするわけありやせんっ!!」
「じゃあ何?ただのケンカ?」
「いや、ちゃんと理由があって、兄貴はレ・・・」
今度はジョニーが口に手を当てた。

二人は並んで、手で口元を塞いで、何も喋らなくなってしまった。

もうどうしたって口を割らせることは不可能だと、ナミはふぅとため息をついた。

ナミが諦めたのを悟ったのか、「じゃ、あっしらはこれで・・・」と席を立つ。
「おいジョニー、兄貴に一応挨拶していった方がいいじゃねぇか?」
ナミの部屋を指差して、ヨサクが思い立ったように言った。
「ああ、礼儀を欠いちゃ一人前の男とは言えねぇ」
そう言って、ジョニーも頷いている。
「姐さん、部屋に入りますが・・・」
「ああ、はいはい」
それがナミの部屋であると先ほどのゾロとのやり取りを聞いて知ったのだろう。
女性の部屋に入ることに照れているのか、彼らの頬はほんの少し赤く染まっている。

「はい、どうぞ」
モジモジする二人のために、ナミがドアを開けて中に入るように手で指示する。

「兄貴、あっしらこれでお暇しやす」
ベッドに寝転んだゾロは寝る、と言ったにも関わらず、目を閉ざしてはいなかった。
「おぅ」と返事しながら、むっくりと起き上がる。

「また何かあったらいつでも言ってくだせぇ!」
「ああ、今回は助かった。遠いとこまで悪かったな」
「いえいえ、兄貴が迷子になるよりは、あっしらが出向いた方が・・・」
ぎろりとゾロが睨みつける。
ジョニーは青ざめて、「い、いえ・・・今のは言葉のアヤってもんで・・・」と首をぶんぶん振った。
その時、彼の目がサイドテーブルに止まる。
「あぁ、懐かしいっすね。アレ・・・」
「あっ本当だ。兄貴まだ持ってたんでやんすか?」
話題を変えるべく、ジョニーとヨサクはそれを指差した。

ナミもその指の先を見る。
そこにあるのは、ベルメールの写真が入れられたガラスの写真立てと、あの日自分を助けてくれた人の持ち物なのだろう、折りたたまれた黒いバンダナ。

ナミが大きくその茶色い瞳を見開いて、ゾロを見る。
ゾロがその視線に気付いて、ぱっと顔を背けた。

「お前ら、用が済んだら帰れよ」
「へ?へぇ・・・じゃ、これで・・・」
「兄貴、くれぐれも無茶しねぇでくださいよ」
「アーロンの奴、今は自分まで相当ヤク漬けだって噂もありやして・・・」
「ああ、わかったわかった。
 おら、もう帰れ」
ゾロは手を払って彼らに帰るよう指示した。

ジョニーとヨサクが齎した情報は、麦わらクラブにとっては貴重で、最も知りたい情報だった。
メンバー全員が感謝の言葉を述べて、玄関先で彼らを見送るために居間から姿を消した。

「・・・お前は行かねぇのかよ」
部屋の戸口に立つ少女に、ゾロが下唇を尖らせて言う。

「ゾロ。その黒いバンダナ。あんたのだったの?」
「・・・・いいや」
「だって、さっきの聞いてたら・・・」
「似たようなのを持ってただけだ。
 あいつらが勘違いしてるんだろ」
「・・・じゃあ、違うこと聞いてもいい?」
ゾロは眉を一つ上げて、少女を見つめた。

「アーロンと一年前に何かがあったって言うのは?」
「・・・別に。ちょっとケンカしただけだ」
「私、サンジくんに聞いたのよ。
 先週アーロンがあんたを見た時に
 『またテメェか』って言ったって」
「・・・・そんなこと言ってたか?俺ぁ覚えてねぇな」
「とぼけないでよっ!」

ナミの声に、来客を見送ってからダイニングテーブルに戻り、既に冷めてしまった各々の紅茶に口をつけていた彼らの手は一様に止まってしまった。

「な、ナミ。どうしたんだよ?」
ウソップがびくびくした声を掛けたが、ナミは振り向かない。
部屋の中からゾロの声がする。
こちらも、酷く不機嫌そうな声だ。
「知らねぇもんは知らねぇ」
「・・・何で、そうやって・・・」

「お、おいナミ・・・」
ウソップがまた声を掛ける。
何があったのだ、と聞こうとした瞬間、ナミが振り返った。

「うっさいわねっ!今、ゾロと話してるのよ!
 見てわかんないのっ!?」
戦慄で震え上がるウソップを尻目に、ナミはバタンとドアを閉めた。

<<< BACK+++++NEXT >>>


全作品リスト>麦わらクラブメニュー
PAGES→
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33