22 再会
サイドテーブルの上の黒いバンダナを手にする。
「前に、コーザ先生に聞いたことがあるわ。
ゾロは剣道をする時に、手拭じゃなくてバンダナ巻いてたって。
それがこれなんでしょう?」
「何で、アイツがそんなこと知ってるんだよ」
「コーザ先生の大学に、ゾロの高校の剣道部が合宿で来たって」
「・・・あぁ、グランドライン大か」
剣道部の合宿で行ったといえば、グラインドライン大学附属高校なのだから、校名にもついているその大学に行った覚えしかない。
当時の記憶を遡って、懸命にコーザの姿を探している。
「話を逸らさないでくれる?」
大きな溜息を床に落として、ナミは手に持った黒い布きれを握ったまま、ゾロの隣に腰掛けた。
「あのね。どうしてあんたがそれを隠すのか知らないけど・・・」
「お、おい。俺は違うって・・・」
「いいから黙って聞きなさいっ!」
ナミはゾロの耳をぎゅっと抓った。
イテェと呟いて、それでもゾロは大人しくなる。
「これは私を助けてくれた人の物なのよ。
あの時、夢中だったから・・・家の屋根が燃えているのが目に入って
夢中でこれを握り締めたままお礼も言わずに帰ったの。
だからね、もしこれの持ち主にまた会うことができたら
一言、お礼を言ってこれを返そうと思ってたわけ。
でも、何回かあの公園に行ったけど、それらしい人には会えなくって」
「・・・・・・」
「ねぇゾロ。私は、その人があんただったら・・・
すごく嬉しいわ。
だから、最後にもう一度聞かせて。
これは、あんたのじゃないの?」
ゾロは、それを見つめて黙り込んでしまった。
ナミも、急かすわけでもなくじっと待つ。
けれども心中、胸の高鳴りがゾロに聞こえやしないかと冷や汗をかいていた。
一年間、この持ち主がどんな人なのか、どうやって自分を助けてくれたのか、想い続けてきた。
彼女の頭の中で、その人物への妄想が膨らんで、なかば憧れに近い感情を持っていた。
それが、ゾロかもしれない。
日頃、彼女を支えてくれるゾロが、その人かもしれない。
早くなる鼓動を止めろというのも、無理な話なのだ。
ゾロが、大きく息を吐いて、ナミの手にあった黒い布を手に取った。
じっとそれを見つめてから、突然彼はそれをびりっと引き裂いた。
「・・・っ!!?
ゾロ、何するのよっ!?」
想像もしなかった彼の行動にナミはその腕を掴んで止めようとしたが、ゾロの力に敵うはずもなく、その布は数秒後には綺麗に引き裂かれていた。
ゾロは何も言わずに、その引き裂かれた布の一部をナミに見せた。
今までは上から縫い合わされていて気付かなかったその裏地に、ボロボロになったタグがついていた。
そして、そのタグには幼い子の拙い字で、大きくはっきりと書かれていた。
『ロロノア・ゾロ』
「これを隠すために親に頼んで縫い直してもらったんだよ」
恥ずかしいだろ、とゾロがにっと口の端をあげた。
こんなところに隠されていた謎の人物の手掛かりに、ナミは初め呆気に取られて、けれども次第に笑みがこぼれてきた。
「・・・かっ・・・かわいい・・・っ!」
その字に、子供時代のゾロの姿を見て、ナミは堪らずに噴出す。
「・・・あははっ!ぞ、ゾロかわいー!!
大きくなっても、そんなタグつけたバンダナ巻いて・・・
ゾロ、最高・・・・!キャハハ・・・あぁ、もう!おなか痛いー!!」
おなかを抱えて笑い出したナミに、ゾロも苦笑する。
未だ止まぬ笑いを堪えながら、突然ナミがゾロに抱きついた。
「・・・あぁ?何だよ、急に」
そう口にするものの、ゾロは決してナミを引き離そうとせず、反対にその腰に腕を回して自分の方に引き寄せた。
あぐらをかいたゾロの上にナミが横向きに座らされる形になる。
ナミは、その首に腕を回して、ふふっと笑ってから、こつんとおでこを合わせる。
さすがに、ここまでの至近距離にゾロの顔が真っ赤になる。
ナミは、目を伏せて静かに言った。
「ゾロ、ありがとう」
彼に、こうして「ありがとう」と言うのは何度目だろうか。
けれども、今までの言葉とは違う。
それは、この一年間、彼の知らぬところで自分の心の支えになってくれていたことに対して。
そして、それを告げる機会が今こうして訪れたことに対しての感謝だ。
ナミの雰囲気に崇高な空気が混ざって、その姿にゾロは息を呑む。
「・・・・おう」
いつものようにぶっきらぼうに返事をして、ゾロはナミを抱き締めるようにして、ナミの頭をそっと横にずらす。
くっついていたおでこがすっと離れて、ナミはその頭を彼の肩に寄せる。
(い、今のは・・・さすがに、ヤバかった・・・)
ゾロは、少しだけほっとして、ナミの頭に顎を乗せて、彼女には気付かれないように小さく溜息を漏らした。
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