全作品リスト>麦わらクラブメニュー>麦わらクラブ依頼ファイル1:過去にとらわれた少女
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25 チョッパーの長い一日




夏祭りの後、何でかナミとゾロが仲悪くなったんだ。
仲悪いというより、何て言ったらいいんだろう。
何て──うん、きっとこれが「他人行儀」なんだ。
・・・・何でだろう?

ルフィに聞いたら、「そのうち元に戻るさ」って笑ってた。
よくわからなくて、ウソップに聞いたら「俺だって知りてぇよ」って落ち込んでた。
ウソップは、人一倍他人に気を遣うから、きっと二人のことに気付けなかった自分を責めてるんだ。
サンジは、「あのクソマリモは悩んだぐらいがちょうどいい」って言ってから、その後「ナミさんおいたわしや」って必ず泣くんだ。

みんな、あの二人に気を遣ってる。
あの二人が、いつも通りじゃないと、この家はバラバラになっちゃうんだ。
俺知ってるよ。ナミはゾロのこと、本当はすごく好きなんだ。
だって、ゾロといる時のナミはすごく可愛いんだから。
でも、ナミは何でかそれを隠しちゃうんだ。
ゾロは、俺にいつも「男なら男らしくしろ」って言うのに、ナミがちょっとイライラしてるだけで、和室に逃げるようになった。
男らしくないよな。
俺に何ができるんだろう?前みたいな二人に、二人が戻ってくれるために。

その日、俺は朝ご飯を食べてからウソップと二人で部屋に戻ってその相談をした。

でもウソップは、悲しそうな顔をして、いくら8千万の恋人の仲直りをさせた俺でも、今回はお手上げだって言った。
8千万も仲直りさせることに成功したのに、ナミとゾロだと何で駄目なんだろう?
あの二人が特別なのかな。

ウソップは、また新兵器の開発に取り組み始めた。
俺は宿題を持って、ナミの部屋に行く。
ナミは俺を見ると、いつも必ず微笑んで、勉強をわかりやすく教えてくれるんだ。
俺が、問題を自分で解いたら、「いい子ね、チョッパー」って誉めてくれる。
俺は、ずっとばあちゃんと二人暮らしだったから、お母さんってこんな感じなのかなって思う。
一回口にしたら、ナミが鬼みたいな形相になって「そんなに老けてる?」って言ったから、もうナミには言わないけど。
それでも、俺は心の中で、ナミのことお母さんって呼んでるんだ。
勝手に思うぐらい、いいよな。

それから、ナミの部屋を出たらルフィが出かけようとしてた。
どこに行くのかって聞いたら、兄貴の事務所だって。
ルフィの兄ちゃんのエースは、俺にも優しくしてくれる。
すごく、いい奴だ。
あんな兄ちゃんがいるルフィが羨ましいな。
そう思ってたら、ルフィがお前も来るかって誘ってくれたから、急いで部屋に勉強道具を置いて、リュックサックを持って、ルフィが待ってるリビングに走った。
そしたら、サンジがキッチンからぴょこんって顔を出して、シーって言いながら、おやつのクッキーの試作品を一個くれた。
「ルフィには内緒だぞ」って笑って言う。
俺も、男同士の約束は守るぞって返事した。
サンジはいい子だな、って俺の頭を撫でる。
俺は、学校でも一番身長が低いから、背の高いサンジにとってはきっと撫で易い位置に俺の頭があるだけなんだろうなぁ。
でも、サンジに頭を撫でられるのは嫌いじゃない。
やめろよなって言ったら、もっと力いっぱい撫でられるんだ。
ルフィとお兄さんもこんなふうな会話してたなって思って、俺はちょっと嬉しくなる。
サンジは俺の兄ちゃんなんだ。
こんな格好いい兄ちゃんいる奴なんて、他にいねぇんだぞ。

それから、ゾロは多分寝てると思うけど、襖を開けずに「行ってきます」って声を掛けた。
そうしたら、ちっちゃい声だけど、ゾロが「気ィつけてけよ」って返事してくれた。
ゾロは、いつも寝てるみたいで起きてて、起きてるみたいで寝てるんだ。
だから俺も、寝てる可能性は高いけど、もしかしたら起きてるかも知れないからいつも「行ってきます」って言うんだ。
ばあちゃんも行ってきますを言わないで外に出たらすごく怒るしな。
俺も、もし寝てる時にばあちゃんが出かけて、起きた時に一人だったらすごく寂しいから、わかるんだ。

ルフィと一緒に、ジャンケンして、交替で荷物持ちしながら、エースの会社に着いた。
エースは、二十歳なのに、もう社長なんだ。
高校卒業して、すぐに会社を作ったらしい。
駅前の雑居ビルに、エースの事務所がある。
社員はエースのほかに、あと一人しかいないんだけど、電話一本ですぐに飛んでく何でも屋が口コミで広がって、もう一人ぐらい従業員を増やそうかなっていつも言ってる。
ルフィとウソップには内緒だけど、俺が大きくなったら働かないかって誘ってくれたんだ。
すごく嬉しかったけど、俺はルフィの仲間になっちゃったから断った。
エースは少し困った顔で笑ってから、ルフィをよろしくって言ってた。
一緒に働くのを禁止してても、エースはルフィのことが大好きなんだ。

エースの事務所で、今依頼されてる仕事の話を聞いてたら、もうお昼を過ぎてた。
エースが奢ってくれるって言ったけど、サンジがきっと俺たちのご飯作ってくれてると思って、俺達は帰ることにした。

家の側まできたら、ルフィがスモーカーに会ってこうって言って、コンビニに入ってった。
ルフィが今、仲間にしようって思ってる奴だ。
スモーカーは、俺たちを見るといつも帰れ帰れって言うけど、結局、ゾロはどうだとか、ナミに店に遊びに来いって言えとかの話で盛り上がって、最後にはいつもお酒をくれるんだ。ゾロがいたら、酒なんかすぐなくなるだろって言う。
それから、俺とルフィの頭をぽんって叩いて、ゾロをよろしくなって笑うんだ。
スモーカーはいつもゾロのこと気にしてる。
何でかって聞いたら、長い付き合いだからなって言ってた。
俺達は、その長い付き合いの中で初めて見たゾロの友達だって。
嬉しそうに笑ってた。

今日もでっかい瓶の日本酒をもらって、ナミの家に帰ってきた。

みんな、俺達が帰ってくるのを待ってたみたいで、もうダイニングテーブルに集まってる。
でも、ナミとゾロは今まで隣に座ってたのに、夏祭りの日から一番遠い席に座るんだ。
おかげで、俺がナミの隣に座れて、お茶を注いでもらったり塩を取ってもらったりするから、嬉しいんだけど。
今日もだ。俺がご飯食べてたら、ナミがたくさん話し掛けてくれて、俺は嬉しくてエースと話したこととか、コンビニに寄ってきたこととか、ナミに負けないぐらいたくさん喋った。
その途中でゾロが、ごっそさんって、急に席を立った。
今まで、早くご飯終わっても、ゾロは興味なさそうな顔をしながらお茶とかお酒を飲んで、みんなの話を黙って聞いてたのに。

でも、誰も何も言わないんだ。
ケンカしてるわけじゃないのに、いつもみたいに暖かくないんだ。

俺は子供だけど、それぐらいわかる。
こんなに人がいっぱいいるのに、一人ぼっちになったみたいな感じだ。

食事が終わって、俺はサンジの手伝いをする。
お皿洗うのは、ばあちゃんに教えてもらってるから俺、結構得意なんだ。
最後に布巾でキュッキュッで磨いて、サンジに見せたら、サンジはまた俺の頭の撫でてくれた。
ご褒美にってアイスココアを作ってくれた。
サンジが作る物って何でも美味い。

俺はそれを持って、和室に行った。
ゾロは、横向いて目を瞑ってたけど、俺が襖を開けたら、瞳を開いて手招きした。
サンジに作ってもらったのか、って聞かれたから、あわててあげないぞって背中に隠した。
これは俺がご褒美でもらった物だから、いくらゾロでもあげるわけにはいかない。
ゾロは、大きな声で笑って「いらねーよ」って言った。
ナミの前でもこうやって笑えばいいのに。
だって、ゾロは笑った時、本当に優しい顔になるんだ。
その後、ゾロに何でお酒が美味しいのか聞いた。
俺、飲んだことあるけどビールは苦いし、お酒は辛い。サンジがこれならどうだって作ってくれたカクテルは、ジュースみたいで美味しかったけど、一杯飲んだだけで寝ちゃって、その後のみんなの話が聞けなかったからつまらなかった。
何でお酒が好きなんだ?って聞いたら、ゾロは顎に手を当てて、左の眉毛だけあげて考えた。
ゾロの眉毛って器用なんだ。片方だけあがるんだから。
俺、鏡の前で練習したことあるけど、そんなことできなかった。
ゾロが、そりゃ鍛え方が足りねぇんだって言うから、まだ鍛えてる途中だ。
だって、こうやって片眉だけあげて考えてるゾロって格好いいんだ。
そんなこと考えてたら、ゾロが「俺の血は酒でできてるんだ」って言う。
酒で血ができてる人なんていないんだぞって言ったら、ゾロは笑うだけで返事してくれなかった。

それでも俺は、ゾロが笑ってくれたのが嬉しくて、もしかしたら今のゾロなら俺の話聞いてくれるかもって思って、勇気を出して聞いてみた。
何で、ナミと仲直りしないんだって。
そしたらゾロは、すごくびっくりした顔で、俺を見た。
やっぱり言っちゃいけなかったのかな。
俺、余計なこと言っちゃったのかな。
でも、ゾロは俺の頭をポンポンッて叩いて「心配かけて悪ぃな」って言った。
俺は心配してないけど、ナミと仲直りしないのかって聞いたら、あいつ次第だって笑う。
ナミが怒ってるってことなのかな?
じゃ、俺がナミに怒ったら駄目だって言ってやろうかって言ったら、ゾロはナミは怒ってるわけじゃねぇって言う。
怒ってないんだったら、何でナミはゾロによそよそしくなっちゃったんだろう?
俺は、よくわからなくなって、ゾロに聞いたけど、ゾロはお前もいつかわかるかもなって言って、そのまま寝てしまった。
俺は、氷が溶けたアイスココアを持って、和室を出た。

ゾロは何でナミに何も言わないのかな?
ナミは怒ってるわけじゃないのに、何でゾロと目を合わそうとしないのかな?
ソファに座って、アイスココアを飲みながら考えても、全然わからない。
学校の宿題なんかよりずっとずっと難しいんだ。

ウソップならわかるかなと思って、空になったグラスを持ってキッチンに行ったら、ナミとサンジがそこにいた。
サンジがナミにアイツなんかより俺の方が、あなたを大切にしますって言ってる。
その声は、俺が知ってるサンジの声と全然違う。
ナミがそうかもしれないわね、って言った。
背中を向けたナミの顔は俺から見えないけど、すごく寂しそうな声だった。
ナミとサンジは付き合うのかな?
でも、ナミの声、すごく寂しそうだった。
サンジが俺に気付いた。
隠れてるつもりだったのに、何でバレちゃったんだろう。
俺が持ってたグラスを取って、美味かっただろってサンジが笑った。
その後ろから、ナミが良かったわね、チョッパーって俺に笑いかけてくれる。
さっきのこと、聞いてもいいのかな。
でも、聞いちゃいけない気がする。
それ以上、ここにいたら邪魔になるって思ったから、美味かったってサンジに言って、俺は部屋に駆け込んだ。

ウソップがいつもの机に座って、手を動かしてる。
新兵器の開発中なんだ。
話し掛けるなっていつも言うから、俺はベッドに座って、ウソップの手が止まるのを待った。
でも、ウソップはすぐに俺に気付いて、何かあったのか?って聞いてくれた。
俺は、今あったこと全部、ウソップに話した。
ウソップは、頷きながら聞いてくれたけど、最後にはこれは二人の問題だからなって言う。
でも、もしかしたらサンジとナミが付き合うかもしれないし、もしそうなったら、ナミとゾロがぎくしゃくしたままなんだ。
俺には何もできることがないの?って聞いたら、いつも通りにすることって言われた。
大人になって、見守ることがこういう時は大切なんだって。

でも、ナミとゾロがいつも通りじゃないのに、いつも通りなんてできるかな。

ウソップがまた手を動かし始めたから、俺はナミに借りた本を読んだ。
ナミはいっつも俺が好きな本がわかるんだ。
たくさん本を持ってて、そこから「チョッパーにはこれね」って言って貸してくれる。
それは、本当に面白くて、俺はついつい熱中して読みきってしまった。
読んだ本の余韻に浸って、ウソップがいる筈の机に目を向けたら、いつの間にかウソップがいなくなってた。
いつの間に部屋を出て行ったんだろう?全然気付かなかった。
居間に行ったら、その大きな窓の向こうに真っ赤な空が見えた。
もうこんな時間だったんだ。
ソファで漫画を読んでたルフィに聞いたら、サンジとウソップで買い物に行ったらしい。
俺にも声を掛けてくれたのに、俺が全然返事しないから二人で行ったんだって。
買い物、俺も行きたかったな。
何か買うわけじゃないけど、街に行くのは楽しくて好きなんだ。
わくわくするから。
ルフィは、俺が街に行くの好きだって知ってるから、残念だなって頭をポンポンってしてくれた。
何となく、元気になった気がして、俺は本をナミに返そうとして、ナミの部屋に行く。
ノックしたら、どうぞってナミの声がした。

入ったら、ナミもベッドで本を読んでた。
俺も今ベッドで本読んでたんだって言ったら、「おんなじね」ってにこにこ笑ってくれた。
俺も、ナミと俺が同じ家の違う部屋で同じことしてたってことが、すごく嬉しい。
本を返したら、ナミが何も言わなくても新しい本を選んで渡してくれた。
「今回のは漢字とかちょっと難しいかも知れないけど、チョッパーなら大丈夫ね」って言う。
そ、そんなことないけどな。ナミにそう言われるとわからない字があっても、頑張って読むぞって思う。
ナミが微笑んでくれたから、俺、ゾロの時と同じように、ゾロと仲直りしないのかって聞いた。
そしたらやっぱりナミも驚いた顔をするんだ。
それから、別にケンカしてるわけじゃないのよ、って言った。
ケンカしてなくて、どうしてよそよそしいんだろう?
じゃあどうして、ゾロと目を合わさないのって聞いたら、ナミはまた驚いた顔をするんだ。
そんなに変なこと聞いちゃったのかな?
でもナミはふふって笑って、心配かけてごめんねって言った。
ゾロとおんなじ事を言ってる。
ナミは何でゾロの隣に座らないのって聞いたら、ナミはちょっとだけ眉をひそめてから、今はそういう気分じゃないからかなって言った。
それってやっぱりゾロを嫌いってことなのかな。
嫌いなのかって聞いたら、よくわからないって笑う。
それから、本を読んでる途中だから、ごめんね。って言って、ナミは俺に部屋を出るように言った。
読んでる途中に邪魔されたら、嫌だよな。
慌てて俺はナミの部屋から出た。

まだ漫画を読んでたルフィに、ナミはゾロが嫌いなのかな?って聞いたら、ルフィは笑ってそういうのじゃねぇと思うぞって言った。

そういうことってどういうことなんだろう。
俺が子供だからわからないのかな。
俺が大人になったらわかることなのかな。
ルフィの隣に座って、色んなこと考えてたら、いつの間にかサンジ達が帰ってきてた。
ご飯の美味しい匂いがして、俺はサンジを手伝おうと思ってキッチンに行った。
いつもサンジは俺が好きでやってんだからって言って手伝わせてくれないけど、俺、今は何かしてたいんだ。
だって俺は、ナミとゾロに何もしてあげられないから。
俺は、この仲間の中で一番小さいし、世間知らずだし、それから一番子供で、何にもできないから。
サンジは絶対に俺をキッチンから追い出すって思ったけど、俺がお願いしたら、じっと俺の顔を見てから、じゃあこのソースをかけてくれって、小さい鍋を渡してくれた。
茶色いソースが入ってる。
サンジに教えてもらった通り、レードルの上が少し空くぐらいまで掬って、ゆっくりお肉の周りにかけた。
白いお皿に絵を描いてるみたいだ。
6枚のお皿にゆっくりソースかけて、全部終わった時にサンジがこりゃプロ並みだなって言ってくれた。
サンジがいつもかけてるソースは綺麗な三日月の形してる。
俺のは楕円形になっちゃってる。
でも、サンジがあんまり嬉しそうに誉めてくれたから、俺も自分がかけたソースがすごくいい形に思えてきた。

サンジと一緒に、お皿をテーブルまで運んだら、サンジがもう席についてた皆にチョッパーが手伝ってくれたんだって言った。
そんなこと言われたら、照れちゃうのにな。
ほら、みんな俺のこと誉め出しちゃったぞ。
俺はソースかけただけで、全部サンジが作ったのに。
嬉しくないぞって言っても、みんなの手が俺の頭に伸びてきて、順番に頭を撫でてもらう。
俺、こういう時、本当にみんなのこと大好きだってわかるんだ。
それから、みんなでいただきますを言って、晩ご飯を食べた。
今日はフレンチだからワインなんだって。
サンジとナミがワインの話で盛り上がってる。
お酒の話なのに、やっぱりゾロは何も言わない。
ルフィも、ウソップもいつも通りだ。
ウソップが言ってた。いつも通りに振舞えって。

でも、ほら見てよ。ナミが、ゾロから目を逸らしてる。
ゾロはいつもだったら、酒よこせよって言って、ナミからお酒を貰うんだ。
今、ゾロの大好きなお酒がナミの隣にあるのに、ゾロはナミに声をかけないぞ。
グラスにもうお酒が入ってないのに、ワインの方を見ようともしないんだ。
いつも通りじゃないぞ。

ルフィの嘘つき。
ナミもゾロも、全然元通りになんねぇぞ。
ウソップだって、知らないって言ったくせに知ってるんだ。
だから、いつもみたいに笑ってられるんだ。
サンジだって、本当にゾロが悩んだ方がいいと思ってるのか?
俺は嫌だ。ナミが寂しそうにするのだって嫌だ。

でもみんな、俺には何も教えてくれないんだ。

俺が、子供だから───?


そう思ったら、俺はぽろぽろ涙をこぼしてた。

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