全作品リスト>麦わらクラブメニュー>麦わらクラブ依頼ファイル1:過去にとらわれた少女
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9 4つ目のプレゼント




数日のうちに、色んな機器や部品で散らかってしまったウソップとチョッパーの部屋は、掃除機すらかけられない。

ナミは、共同スペースのリビングダイニング、そして水周りと自分の部屋の掃除をすることになっている。
後は、それぞれが使っている部屋を片付ける・・・という彼らの中の暗黙のルールができていた。

(やっぱり、これだけ人がいると減りが早いわね・・・)
シャンプーボトルを手に取ると、その余りの軽さに驚いた。
一週間前確かめた時はあと半月は替えの物を用意する必要はないと思っていたのに。
洗剤やトイレットペーパーもあっという間に減っていく。
毎日大量に買い込む食材も、大抵その日のうちになくなってしまう。

それでも、そのために買い物に出るのは、ナミの楽しみでもあった。

世話してあげているような、世話してもらっているような、不思議な安らぎ。
これが「仲間」ということなのだろうか?

ふと、サンジの顔がよぎる。
(・・・大丈夫。きっといつも通り接して見せるわ)
ナミは、そう自分に言い聞かせた。

「ナミー腹減ったぞー」
元気良く入ってきたのは、愛らしいチョッパーだった。

「チョッパー、ゾロが寝てるから・・・」
しぃっと、ナミが口に人差指を当てて言うと、チョッパーははっとして、両手で口を塞いだ。
「あら?ウソップは?」
「今日は交替で昼食べようってことになったんだ」
「そう。じゃあチョッパーの分だけ用意すればいいのね」
「あれ?ナミは食べないのか?ウソップと食べるのか?」
「ううん。私はまだおなか空いてないから・・・まだいらないわ」
「おお〜今日の昼飯もうまそうだな〜。なっ!」

その日、サンジが用意していってくれたのは冷麦だ。
だが、薬味が数種類用意されている上に、丁寧に作られた出汁は、冷やされているにも関わらず、ふわっと良い香りを漂わせる。

「チョッパー、ジュースもあるわよ。麦茶がいい?」
「俺、麦茶でいいよ」そう答えてから、チョッパーは嬉しそうに顔を綻ばせて食事にありついた。

あっという間に器に盛られた冷麦をたいらげる。
「ご馳走様でした」と両手を合わせて言うところが、チョッパーらしいとナミは微笑んだ。

「じゃあ俺、ウソップ呼んでくるよ」
「ええ。ウソップの分もすぐに茹でておくから、走って来いって言ってやってくれる?」
「わかった!」チョッパーは急いで椅子を降りて、玄関に走って行った。
ナミはチョッパーの食器を持って、台所に立つ。
水を出して、スポンジを手にした。

その直後、叫ぶような、「ナミッ!」というチョッパーの声が聞こえた。

「何・・・?」
ナミが急いで玄関まで行く。

玄関でドアを開けたまま呆然と立つチョッパーが、ナミの顔をじっと見つめた。

「チョッパーもしかして・・・?」

チョッパーが、ドアの向こう側の手をゆっくりと見せた。
そこに、見慣れた白い紙袋があった。


「いつの間に・・・」

キッチンの鉄のシンクに、水が勢い良くこぼれ落ちていた。



+++++++++++++++++++



「じゃあ、チョッパーがご飯食べてる間にこれを置いてったってことか」
ウソップが冷麦をすすりながら、テーブルに置かれた白い紙袋をじっと見つめた。
チョッパーは、ウソップと交替してマンションの入り口で見張りを続けている。

「そうね・・・今日のご飯は冷麦だから、チョッパーも時間掛けて食べなかったし。
 時間にしたら、10分?20分ぐらいかしら?」
「その間、出入りした奴はいねぇぞ?」
「午前中にここに入って、隠れていたのかもしれないわ」
「そうだな。あ、それとこれこれ」

そう言って、ウソップがポケットから紙を取り出す。

「チョッパーのお手柄だぜ!
 まぁその影には、このキャプテーン・ウソップ様による演技指導が・・・」
「ああ、言ってた出入り業者のリストね。
 メリーさんに教えてもらったの?」
「お前、俺の話の腰を折るなよ・・・」
「あんたの話は無意味に長いのよっ!
 ・・・で、金曜日だけ出入りするような業者は?」
「この二つだってよ」
ウソップは、箸で二つの業者を指す。

そこにあるのは、宅配業者と、おそらく植え込みの整備のためだろう、園芸会社の名だった。

「宅配業者って、毎週・・・?」
「何でも、このマンションで在宅ワークしてる住人がいるらしい。
 毎週金曜日に集荷に来るんだとよ」
「ふぅん・・・今日は来てた?」
「いや、俺は見なかったし、いつもは夕方頃来るらしいな」
「じゃあ、この園芸会社の人?」
「ああ、そりゃ俺も今朝見たよ。ごっつい親父一人だった。職人って感じのな。
 でも、さっきチョッパーが昼ご飯食べに行く前に
 軽トラに戻ってご飯食べてたぞ。多分、今もまだ車ん中で休憩してるんじゃねぇか?」
「じゃあどっちも有り得ないのね。・・・ということは、出入り業者の線は薄いのかしら」
「そうだなぁ・・・くそっ俺の新発明に怖れをなしてやがるな?」
「あんたの新発明のことを、そいつがどうやって知るって言うのよ」
呆れた顔でナミがため息をついた。

「で、それ中身は何だ?」
「まだ見てないわ。気味悪くて・・・ウソップ、見てみてよ」

一瞬、ウソップが固まった。

「お、お、俺は今食事中だから無理だ!!」
「・・・あんた、本当に何しにここにいるわけ?頼りないわねぇ」
「ゾロに開けさせればいいだろ!」

「駄目よ。寝てるんだもん。
 これを開けるためだけに起こしたら怒り狂うわよ。
 ほら、勇敢なキャプテンウソップ様!開けてよ!!」

そう言って、ナミがずいっとその紙袋をウソップの目の前に差し出した。

「ああっ駄目だっ!突然『袋を開けてはいけない病』に・・・」

「いいから早く開けなさいよっ!!」

ナミの剣幕に負けて、ウソップは渋々その袋を手に取った。
「・・・なんか、今日は軽いな?」
そう言って、中をのぞきこんで「まさか爆弾じゃないよなぁ」と言いつつ、小さな箱を取り出した。
「よし、じゃあ開けるぞ」
二人がゴクリを生唾を飲み込む。

その箱には、口紅が一本入っていた。

「・・・口紅?」
「口紅、だな」

そう言って、ウソップが紙袋をひっくり返すと、白いカードがぽとんと落ちた。
顔を突き合わせて、カードを開く。
「・・・今日は、随分色々と書いてるな。ナミ、何て書いてある?」

「・・・・・」

ナミは眉間に皺を寄せて、無言でウソップにそのカードを渡す。
そのカードには、乱暴な字でこう書かれていた。

『何人の男を集めても、俺には敵わない。
 この口紅みたいな赤い血をお前に流させるのは俺だ。
 お前の処女は俺が貰う。忘れるな』


「・・・・最低!!」

ナミはそう吐き捨てて、口紅を壁に投げつけた。
それは、カツンッという音とともに、フローリングの床の上でころころと転がった。

「粘着型って感じだな・・・ナミ、お前本当に心辺りねぇのか?」
「ないわよっ!こんな奴・・・あーもう、気持ち悪い!!」
「それにしても・・・お前がしょ・・・」

ナミに睨まれて、ウソップがコホンと咳払いした。

「お前のそういうことをだな、知ってるってことは昔からお前を知ってるってことじゃねぇのか?
 ・・・そ、そう睨むなっ!だから可能性の話で・・・これがもし事実だとしたら
 お前のことを前から知ってる奴ってことになるだろ?」

「知らないわよ!こっちだって聞きたいぐらいだわ・・・
 ああ、もうこれだから男って嫌なのよ!
 男なんて、みんないなくなればいいのに・・・!!」

ナミは、苛立ちを隠さないままにバタバタと自室に入って、ドアを乱暴に閉めた。

一人取り残されたウソップは、少し迷うような表情で、和室の襖をそっと開けた。
「・・・・おい、ゾロ。起きてくれよ」
「あんだけうるさくて寝てられるか」
布団の上で横向きになって背中を向けたまま、ゾロが返事をした。
ほっとした表情で、ウソップが和室に入って、静かに襖を閉めた。

「お前、どう思う?」
「何がだ」
「犯人だよ。俺はやっぱりナミをよく知ってる奴だと思うんだけどな。
 いや、そうじゃないなぁ。ナミが気付かないところで、ナミを知ってる・・・か?」

「それがストーカーってもんじゃねぇか」
ゾロは、頭の後ろに腕組みをして、寝転んだままに一つ欠伸をした。

「そりゃあお前・・・せ、せ、生理・・・ってのは、ゴミを漁ったりすればわかるかもしんねぇぜ?
 でも、ナミがしょ・・・処女ってのは、わかるか?見た目とか、ゴミで」
「カマかけただけかもしれねぇだろ」
「そうかなぁ・・・俺はどうも、犯人はナミをずっと付け狙ってたように思えるんだよなぁ。
 それこそ、去年からとか。今年の誕生日まで息を潜めてやがっただけで・・・」

その言葉に、呑気な顔で寝ていた男はその眼を開けた。

「そうかも知れねぇ・・・」

ゆっくりと体を起こし、あぐらをかいて俯いたままゾロが呟く。

「こりゃナミだけの問題じゃねぇかもな」

ウソップが、不思議そうな顔をして「どういう意味だ?」と聞き返したが、ゾロはそれっきり黙りこんでしまった。

その時、突然インターフォンが鳴った。
ナミの部屋のドアがガチャッと開いて、続いて「はい」と答えている声が聞こえた。

その途端、インターフォンから悲痛な声が聞こえてきた。

『・・・ナミ、ナミッ!!』
「チョッパー!?どうしたの、落ち着いて・・・」
『犯人だっ!俺、見たんだ・・・!』

ウソップとゾロが和室から飛び出た。
「落ち着け、チョッパー!俺が今そっちに行く!」
画面に向かって、そう叫んでウソップが駆けて行った。

「おい、チョッパー何があった?」

ゾロの問いかけに、チョッパーは涙目でその顔をカメラに近づけた。
『さっき、男が出て来て・・・俺、逃げたんだけど追っかけてきて・・・
 殴られたけど、俺がペンで刺したら倒れたんだ・・・それで・・・』
『チョッパー、後ろだっ!!』

インターフォン越しにウソップの声が響いた。

ガチャガチャッという音の後に、チョッパーが何かのボタンを押してしまったのだろう。
ピピッという音がして、通話が途切れた。

ち、とゾロが舌打ちして、ウソップに続いてエントランスに向かおうと、踵を返そうとする。
瞬間、彼は自分が動けないことに気付いた。

ナミが真っ青な顔で、ゾロのシャツの裾をその震える手でそっと握っていたのだ。

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