全作品リスト>麦わらクラブメニュー>麦わらクラブ依頼ファイル2:心を隔てるもの
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10 解明




隠し事があるだろ、と問われればそりゃたくさんある。
でもそれは、ゾロに言うまでもないことだからであって、隠さなくてはいけないと思って隠していることでもない。
むしろ、ゾロが知らないから隠し事という名がつくだけなのだ。
ゾロが訊けば、いくらでも話そうという気にもなる。

けれども、今朝のことだけは言えない。

「あんたって、デリカシーのない男ね」

「なくて上等だ。おら、聞かせろよ」
そう言って、ナミの頭に敷かれた自分の腕を少し動かして、それを促した。
その顔は、真剣そのものだ。
何故、そんなにも訊きたがるのか?
逆にナミはそれを知りたくて仕方がない。

「ねぇ、どうしてそんなに気になるの?」
「昨日シャンクスとか言う奴が・・・」
「シャンクス先生?」

ああ、そう言えば、彼が家に送ってきたのだとゾロが言っていた気がする。
しかし、それが一体何なのか、さっぱりわからない。
ナミは困ったように首を傾げた。

「・・・お前の愛は学校で渡してくれだと」

本当はあんないけすかない奴の伝言なども伝えたくもないが、そういうわけにもいかない。
変なところで律儀な彼の性分上、それを伝えなくてはとどうしても思ってしまうのだ。

プーッとナミが噴出した。

「アハハッ!・・・そう。私の愛、ね。
 シャンクス先生らしいわ・・・!」
ナミはおなかを抱えて、思いっきり笑う。
面食らったのはゾロだ。
今度は彼が、さっぱり意味がわからない、という顔でナミを見ていた。

「・・・ハハッ・・・そっかぁ。
 良かったわね、ゾロ。
 シャンクス先生、あんたのこと気に入ったのよ」

「はぁ?俺が?」

あのにやついた男が?

ゾロの頭はいよいよもって、はてなマークで埋め尽くされる。

「そうよ。シャンクス先生、嫌いな人には
 そんな冗談、絶対に言わないんだから。
 伝言だとしても、あんたをからかったんでしょ?
 小学生が好きな子いじめるのと一緒で、
 気に入った生徒はからかう人なのよ」

そう言えば、ナミの服を脱がせようとした時も、やけに俺に付き合ってるのかどうかとか、しつこく訊いてきやがった。

「からかわれてたのか・・・」
ゾロが余りにもすっきりした表情で納得したので、ナミは更に噴出してしまった。

「じゃ、お前の愛ってのは一体何なんだよ?」
「お金よ、お金!・・・あー苦しい・・・!」

笑いすぎて苦しくなったナミの瞳には、涙が浮んでいる。

「金ぇ?」
「そうよ。あの先生にはお金をたまに貸すの。利子つけてね。
 昨日、それを頼まれた時に、今日うちに来て
お金を借りるって言ってたから多分、そのことよ」
「お前先公にまで金貸しか?」
「あら、失礼ね。頼まれたから、仕方なくよ?」
「じゃあ何で俺のことアイツに知られて
 怒ってたんだ?」

怒ってた?そんなこと言っただろうか。
丁度高熱がピークの頃で、あまり記憶にない。

「そんなこと言った?」
「あァ。言ってたじゃねぇか。
 『シャンクス先生に・・・』『シャンクス先生に・・・』ってな」

ナミが突然、その頬を緩ませて、瞳を光らせた。

「へぇ〜それで、ヤキモチ妬いちゃったのね?」
「・・・妬くか、バカ」

そう言いながらも、ゾロは腕をナミの背中に回して、自分に引き寄せる。

「それはねぇ・・・多分よ。私は覚えてないから。
 多分、シャンクス先生にバレたら、
 その弱みを握った先生が、利子つけずに
 お金貸せって言うからだと思うわ。
 今もそれが心配だもの」


ゾロが呆れたような顔でナミを見た。

彼女は、嬉しそうににこっと笑う。


「・・・・・魔女。
 あんな状態でも金の心配か?」
「当たり前でしょ。
 あんたみたいな大酒飲みが居候してるんだから」

へぃへぃ、と無愛想に返事して、ゾロはナミの髪に顔を埋めた。
素直に謝ることができないゾロは、こうやって勘違いしてすまなかったとナミに謝る。
彼は、それをナミが好んでいると知っているのだ。
案の定、彼の腕の中でナミはくすくすとご機嫌なまま笑い続けた。

「じゃあ、あのタオルは何だったんだ?」
唐突に思い出して、また同じ質問をする。

「だから、怪我じゃないの。
 心配してくれただけで十分よ」

そんなことを言われては、それ以上何も訊くことはできない。

(今日もこいつに負けた・・・)

そう思いながらも、彼女に負けることの心地良さに彼は浸る。
こうして、ベッドの上で彼女と抱き合う。
少女は決して媚びることなく、彼と向き合って、そしてやり込める。
だが、それでこそナミだ。
彼女が元気な証拠なのだ。

その柔らかな頬に手をやって、顔を上げさせる。

「やっぱまだ顔色悪ィな。
 気分悪いか?」

何気なくそう訊いた。

すると、ナミはゾロの優しい瞳に、ついご機嫌なまま素直に答えてしまう。

「おなか痛いのは治ったみた・・・」
そこまで言って、彼女はしまった!とばかりに唇を閉じた。

そっと目を上げると、ゾロは眉を顰めている。

「腹?」

そう。
頭痛がすると言って、鎮痛剤でもある頭痛薬を飲んだのは、誰でもないナミ自身だ。
それなのに、今、彼女の口からはっきりと「おなか」という言葉が出てきた。
やっぱり何か隠している・・・───

「ち、違うわよ。言い間違い!
 おなかじゃなくって、頭・・・っ!?」

次の瞬間、ゾロはナミを組み敷いて、そのベージュのニットをおなかが出るように捲り上げた。

「・・・どこだ?」

本気で怪我していると思っているのだろう。じっとその白く、引き締まったおなかを見つめる。

「ち、違うのよ。ゾロ!違うのっ!!」
慌ててまたニットを戻して、ナミは起き上がろうとした。

「お前、やっぱ何か隠してるんじゃねぇか!」
ゾロは逃げようとするナミの肩を強い力で抑えて、彼女の思い通りにさせまいとする。
少女はじたばたともがいたが、本気のゾロに勝てるわけがないのだ。
そのうち、諦めたように力を抜いた。

「わかったわ・・言うから、手を離してくれる?」

ふぅとため息をつくと、ゾロの手がすっと肩を放した。

ナミの足元にあぐらを掻いて座る。組み敷かれていた体を解放された少女も、恥ずかしそうに体を起こして、ゾロの前でちょこんと正座した。
その顔は、あまりにも真摯な表情を湛えていて、ナミは一瞬どう言おうか迷った。

けれども、もう逃れられる雰囲気ではない。

深く息を吸って、ゆっくりと吐いた。
ゾロはそんなナミを見据えて、ただ言葉を待っている。

「あのね・・・」

(何で、これを言うのにこんなに改まってるのよ・・・)
ナミの顔が真っ赤になっていって、ゾロはようやく彼女の様子が、隠し事を打ち明けると言うよりも、どこか恥ずかしがって・・・そう、今の彼女に大人びた表情は微塵も顕れておらず、それどころか言葉に詰まってもじもじしているようにも見える。

「・・・?」
ゾロは眉を一つ上げて、彼女のその様を理解できない風に口を尖らせた。

「あの・・・・・・・・・なの」

「あァ?」
肝心の部分は、遥か遠くの小鳥の鳴き声よりも小さい。
さっぱり聞き取れなくて、ゾロは不遜な声で聞き返した。

「だから、その・・・
 あー、もうっ・・・
 女の事情ぐらい察してよ・・・」

そう言って、ナミの頬はまたさらに赤くなる。

「はぁ?何の話だ?」

(これだけ言って、こんなに態度に示してるのに・・・)
あまりに気が利かない男に、ナミは心で涙を流していた。
頼むから、もうこの羞恥心から解放して欲しいと切に願う。
だが、そんな彼女の願いは彼には全く届いてないらしい。
それどころか痺れを切らして、はっきり言え、なんてそら恐ろしいことを口にしている。

「はっきり、言ってもいいのね?」
「あァ。だから、言えって言ってるだろうが」
「後悔しない?」
「するか、バカ」
「・・・じゃ、もしこれを聞いて、ゾロが驚いたりしたら・・・
 今日は和室で寝てもらうわよ?」

ルフィ達が泊まる週末、初めはゾロは和室で寝ていた。
しかし、一日の睡眠時間が多い分だけ眠りが浅い(本人曰く)ゾロにとって、寝相の悪さでは天下一品のルフィと寝ることは地獄以外の何者でもないらしい。
何があったかは知らないが、「これで二度目か・・・」と股間を抑えながら出てきた朝から、ゾロはナミの部屋で寝ると言い出した。
もちろん、サンジが大反対だったが、ゾロは彼のことなど意にも介さず、ナミの部屋でいつものように寝るようになったのだ。
ナミとしては嬉しいよりも、恥ずかしさで耐えられない。
ウソップとチョッパーはいやににやけた顔でナミとゾロを見るし、ルフィは「今日こそヤッたか?」なんて下世話なことを言う。
この条件は、ナミにとって天国。ゾロにとっては地獄行きの切符なのだ。

「俺がそんな小せぇ玉に見えるか?」
自信満々で条件を飲むこの男は、一体何を言われると思っているのだろうか。
よくわからないが、ナミはすぅーと息を吸って、ようやくその一言を口にした。


「生理なの」






「・・・・・・・・・・・・」




ゾロが完全に固まった。
ほらね。やっぱりね。
ああ、もう・・・そんなふうにあからさまに固まられたら、私の方が恥ずかしいのに・・・


「・・・・・・・・・・ッ!!!!!?」


ずさっと後ろに飛びのいて、ゾロは背中から落ちた。

「ちょ、ゾロ・・・大丈夫?」
慌てて覗きこもうとすると、彼は、またそこから後ずさりして洋服ダンスに思いっきり背中を打ちつけた。

(耳まで赤くなってるわよ、ゾロ・・・)
そんなゾロを見てると、こっちも赤くなる。

ナミは、赤く染まった顔で、困ったように眉を顰めて口をきゅっと結んで俯いていた。


「・・・寝るわ。出てってくれる?」

ゾロは、ようやく頷いて、ぎこちない動きですぐに部屋を出て行った。



(・・・やっぱり、バカ・・・)
呟いて、ナミは頭まで布団を被って朝よりは多少マシになった痛みと共に、薬の副作用なのか、多少の吐き気を感じながら目を閉じた。

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