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21 誕生日プレゼント




バイトがクビになった経緯を話すと、案外ナミはすんなりと納得した。
「じゃあこれから買い物と布団干しぐらいはやってもらうわね」と言われて、やってみたが、帰ってきたナミにどやされた。

「夕方まで干してたら湿気るだけでしょ?」
思いっきり拳骨をくらった。

(今日は文句言わせねぇ・・・!)
そうしてヒマを持て余した二日目。
布団を干してからソファに座って、時計を見ようとしたその時、ケータイのメール着信音が鳴った。
時刻は午前9時。
こんな時間に連絡してくるような知り合いはいない。
不思議に思ってケータイを取り出す。

『件名:プレゼント
本文:今日はゾロの誕生日なので、みんなからゾロが喜ぶ言葉を贈ります。ナミ』

「・・・何だこりゃ?」
首を捻る。
みんなから、と書いてあるのにその続きはない。
返信しようと思ったが、今は授業中の筈だろう。
送信するぐらいは隠れてできるのかもしれないが、返信してもしも教師にバレてしまったら、後で自分がナミにどつかれるだけである。
手に持った携帯電話を見つめて、もしかしたら続きのメールが来るのかもしれない、とそれをガラステーブルの上に置き、また、布団を最高のタイミングで取り込むために時計と睨めっこを始めた。

午前10時。
また着信音が鳴る。
見れば、登録されていないアドレスだ。

『件名:HappyBirthday
 本文:今度ダブルデートしましょう♪ ビビ&コーザより』

「・・・これが、俺の喜ぶ言葉か?」

ゾロは苦笑する。
ビビが考えた言葉なのだろう。
きっとあのエロ教師はそんな事を書くなと隣で苦々しい表情を見せたに違いない。

ふっと笑って、またそれをガラステーブルの上に置いた。

午前11時。
ナミに教えられた通り、布団をひっくり返して、リビングに戻るとまたメール着信音が鳴っていた。
登録されたアドレスだ。画面にはジョニーという字が出ている。

『件名:おめでとうございやす
 本文:あっしらは一生ゾロの兄貴についていくっす!』

「おいおい、そりゃ迷惑だ・・・」
しかし、これで漸くわかった。
こうやって次々にメールが届くというわけだ。

一時間、筋トレをして時間を過ごしていると、3つ目のプレゼントが届いた音が部屋に響いた。
次は誰かと画面を開く。
チョッパーからだ。
『件名:ゾロ、おめでとう!
 本文:20歳になったらお酒を飲んでもいいんだぞ!』

「いや、もう飲んでるの知ってるだろ・・・?」

しかし何となく嬉しくなってくる。
こういうのを考えると言えば、ナミしかいない。

(やってくれるじゃねぇか)
口元が自然に緩んで、ゾロは携帯をジーンズのポケットに入れて、昼御飯を食べてから買い物に出た。

午後も一時間ごとにメールが届く。


午後1時 ウソップ
『件名:ハッピーバースデーtoゾロ
 本文:今度俺特製の鉄アレイを作ってやろう!しかも無料だ!!』

それは嬉しい、とつっこむ。


午後2時 サンジ
『件名:クソマリモ
 本文:今日のケーキはナミさんのお手製だ』

・・・・・・?
ナミがケーキを作った?
いつの間に?
昨日も今日も学校に行って、すぐに帰ってきたはずだが・・・?
その謎に対する答えが出ないまま、一時間後、またメールが届く。


午後3時 ルフィ
『件名:無題
 本文:酒!』

確かに、俺が喜ぶ言葉と言ったらこれだろう。

ゾロは笑って、再度彼らが送ってきたメールを読み返した。
その場で全員から言われるよりも何となく有難い。
次は・・・ナミだ。
自分の口で言うのが嫌だったんだろう。
その気持ちが決まったということを。
それで皆を巻き込んで、こんなプレゼントに紛らわせることを思いついたに違いない。
ナミにとってみれば、俺を解放してやれるというところか。
それを喜ぶとでも思っているのか?
反対だ。

その言葉を読めば、俺は胸を切り裂かれるような痛みを覚える。
だが20歳になったという区切りには丁度いい。
ナミが帰ったら、笑ってありがとよって言ってやれる。



そう思って、ゾロは深呼吸をした。

もう覚悟はできている。



取り込んだ布団を押し入れに入れて、ナミの部屋へ行く。
馴染みあるベッドに寝転んで、両腕を頭の後ろで組む。

(こことももうお別れだな)

この3ヶ月で目に焼き付いた天井を見上げて、胸の内で呟いた。
このベッドでどれだけナミを抱き締めただろうか。
その体温を感じて、もっと、と欲望が高まってはそんな自分を懸命に抑えた。
幸せ。そうだ、幸せだったんだ。
生まれて初めて、一人の女にこれほど惚れこんだ。
その感覚に酔いしれていたのだ。
今となってはもう遅い。
だが、最後に彼女に伝えようじゃないか。
お前が好きだった、ってな。



その時、突然部屋にオレンジ色の髪の少女が入ってきた。

「・・・?」
まだ学校から帰る時間ではない。
じゃあ、早退してきたのか・・・?

「覚悟はいい?」
女は微笑んで、手に持った携帯電話を彼に向かって見せる。

(そういうことか)
ゾロはゆっくりと体を起こして、口の端をあげた。

「いいぜ」

数秒後、ポケットの中で着信音が鳴った。


ついに、賭けの期限の終焉を知らせる音。

何を見ても驚くまい。

ボタンを押して、受信メールを開く。


時刻は丁度午後4時。最後のナミからのメール。

『件名:ゾロへ
 本文:好きです』




「・・・・・・?」


何度も目を擦っては、その文字を確認する。



『好きです』



「・・・好きよ。ゾロ」

顔を上げると、少し頬を染めて嬉しそうに笑うナミがいた。

「ナミ。こりゃ・・・」

ふふっと彼女が笑う。

瞬間、ゾロはベッドから降りて、彼女を抱き寄せていた。


「・・・マジか?」
「マジよ」ゾロの胸の中にいる少女の声は、甘い幸せに酔いしれて、微かに震えていた。

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