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10 それぞれのお買い物




「あれ、ナミ。ゾロのとこに行かなくていいのか?」
「先に私の服を買いに行くって言ったでしょ?」
はぁ・・・と曖昧な返事をして、嬉々としてデパートに入って行くナミの後をウソップが追った。

ナミの家と高校の間には、このグランドライン市の中でも大きめのターミナルステーションがある。
駅前は東口にデパートが一つ。後はオフィス街となっていて、西口にはデパートが二つ。大型スーパーが一つあるのだ。
高校は東口方面に10分ほど歩いた駅から程近い所にあるし、ナミの家は広い駅構内を突っ切って徒歩20分ほどの住宅地にある。ルフィとウソップの家はナミの家からおよそ10分ほど、北に位置していて、サンジの家は東口の駅前。チョッパーはイーストブルー高校よりも東側の地区に住んでいる。
ナミは、通学には必ず駅前を通っていた。
他の道もあるし、そこを自転車で通っていいのだが、何より朝の張り詰めたような人ごみを歩くのも好きだし、帰りには時間の許す限りデパートでウィンドウショッピングをするのも彼女の楽しみなのだ。
せっかく洋服を買う名目ができた。
以前から目に付けていたあのキャミワンピを買おうと、迷いもせずに東口のデパートに入って行った。

「どう?ウソップ、これよ」
目的のショップの店頭に飾られたワンピースを指差す。
「白かったからカヤに似合いそうだなー」
「あんた・・・頭の中カヤさんでいっぱいね」
「ば、バカ!そういうワケじゃねぇよっ!!」
途端に真っ赤な顔をしてウソップが言い訳をする。
「そう照れることないじゃない。
 今日、ゾロと服を決めたらカヤさんの家に行って
 24日のこと教えてあげなさいよ。
 じゃ、これディスプレイから外してもらって・・・」
「え?試着とかいいのか?」
店頭で話している高校生を訝しんだのか、出てきた店員を捕まえてナミがそれを指差して財布を手にする。
「いいのよ。前に一回着たことがあるの。
 ま、その時は買うつもりなんてさらさらなかったけどね」

(俺にはできねぇな・・・)
ウソップは勧められたらついつい買ってしまう。
ナミならば尚更、この黒いドレスが似合うであろうし、店員も心底誉め倒したに違いない。
それでも買わないと言ってその店を出られるところがナミのナミたる所以なのかもしれない、とウソップはある種の羨望の眼差しでナミの背中を見ていた。
「えっと・・・ホームパーティーだから、靴はそこまでフォーマルじゃなくていいわよね」
そう言いながらもナミは靴売り場へと歩いて行く。
「買わねぇんじゃねぇのか?」
先ほど買ったワンピースが入った袋を持たされて、ウソップが不満げに呟くとナミが振り返ってにこりと微笑んだ。
「買わないわよ?でももしいいのがあったら買ってもいいわね」
「そりゃ買うつもりってことじゃ・・・」
「ウソップ、何か言った?」
凄味の効いた声がウソップの耳に届く。
「・・・い、いや・・・」

内心汗だくになって首を振ると、ナミはまた上機嫌になってその場に立ち尽くしてしまったウソップを置いて靴を選び始めた。


++++++++++++++


「お姉さま♪次はどちらに?」
西口のデパートにはサンジが荷物持ちをする姿があった。
「さっきナミからメールが来てたでしょ?
 クリスマスパーティーなんて何年ぶりだろ。
 家まで帰ったら着る物もあるけど、せっかくだから買おうと思ってね。
 悪いね、付き合せちゃって」
「いえいえ♪レディーのお買い物のお供ができるなんて恐悦至極♪♪♪」

そう言って、サンジがタバコを取り出そうとすると、ノジコに鼻をつままれた。
「デパート内は禁煙だって何回言ったらわかるの?」

チェーンスモーカーのサンジはつい癖でタバコを手にしてしまう。
祖父のゼフに何度料理人は舌が命と言われても、中学生の頃に大人ぶって吸い始めたそれは、既に彼の体の一部になってしまっていた。
あぁ・・・と言って、胸ポケットにそれをしまうサンジを見て、ノジコが呆れたように笑った。
「しょうがないね。ちょうどお昼だし、ご飯食べに行こうか。
 ほら、ここ8階がレストラン街になってるし。
 そこならタバコも吸えるだろ?」
「いえ、俺に気を遣っていただかなくても・・・」
「おなかが空いたんだよ。ほら、行くよ」

ああお姉さま〜♪と嬉しそうに女の後ろを追いかけるサンジの姿に、店員や他の客が一体何事かと目を向けていた。


++++++++++++++


ルフィとチョッパーはナミに言われた布団を買うために、西口の大型スーパーまで来ていた。
「チョッパー見ろよ!このコタツならみんなで座れるぞー!」
「ルフィ、ナミはコタツ買うなって言ってたぞ?」
「そうかぁ?お金くれたじゃねぇか」
「これは布団代だぞ」
ルフィの視線がチョッパーの財布に釘付けになって、少年は慌てて栗色の髪を揺らして頭を振った。

「でもチョッパーもこれいいと思うだろ?」
そう言って、ルフィが指差した長方形の木でできたコタツは、確かに2人座れる面が二つ、1人が座れる面が二つ、ぴったりメンバー全員が座れるスペースができそうだ。
「これを和室に置いたら、こたつに寝っ転んでテレビも見れるよなー。
 鍋もこの上で食うんだ!みかんもだぞ。絶対楽しいぞ!」
チョッパーの家にはこたつがない。
祖母のくれはの好みで全て洋室となっていて、チョッパーはこたつで鍋を囲むという体験をしたことがなかった。
「鍋をここで食うのか?」
「ああ!みんなで暖かいこたつに入って、鍋をつつくんだぞ。
 その鍋が特別美味いんだ!」
「美味い?サンジの鍋ならどこで食べても美味いんじゃねぇか?」
「わかってねぇな。チョッパー」
ルフィが人差指を立てて、チッチッと舌打ちした。
「こたつで食うから美味いんだ!
 こたつだと鍋の味は変わるんだぞ!!」
「そっそうなのか・・・っ!?」

チョッパーが目を丸くすると、ルフィは至極真剣な顔でゆっくりと頷いた。

(そ、そんなに違うのか?こたつで食べる鍋は・・・)
少年の瞳はコタツに釘付けになる。

「でも、コタツなんて買ったらナミに怒られちゃうよ」
「チョッパー、こたつはな、こたつで寝ることもできるんだぞ。
 だから、俺とサンジがこたつで寝れば布団は余るぞ」

(こたつって、すげぇんだ・・・!!)
チョッパーの心は既にこたつに向かっている。

「なっ!チョッパー。こたつは必要なんだぞ!」
最後の一押しに、チョッパーは躊躇いなく頷いた。
「そうだ!こたつはいるよな!
 ナミだってわかってくれるよな!」
「おおっ!!チョッパー、わかってくれたんだなっ!」
ルフィが嬉しそうにチョッパーの頭を撫でた。
嬉しそうに笑って、チョッパーが店員を呼ぶ。
「お決まりですか?」と聞かれて、そのこたつを指差した。
「こちらですね。この現品限りですがよろしいでしょうか?」
「「はいっ!!」」
二人が元気良く答えると、店員が営業スマイルをさらに緩めて
「では、5万8800ベリーになります」と言った。




「・・・・・・・ご、ごまん・・?」
慌ててチョッパーが値札を見ると、そこにはしっかりと税込み58,800と赤字で表示されている。
ルフィはそれでもにこにこ笑っている。
「る、ルフィ・・・お金が足りないよ・・・」
耳打ちすれば、ルフィはにっと笑った。
「ツケとけばいーんだ!」
「ツケって・・・使えないよ、こんなお店じゃ・・・」
そもそもツケなんて使ったこともない。

うろたえる少年を見て、店員が困ったように眉を顰めた。
「僕たち、お金がないの?じゃあ買えないよ」
「おっさん、ツケといてくれ!」
(うわっ!本当に言っちゃった!!)
チョッパーが慌てて手を振る。
「い、いえ・・・あの、もういいんです!」
「何だチョッパー、これ欲しいって言ったじゃねぇか」
「俺じゃなくてルフィが先に言ったんだぞ!」

言い争いを始めた二人に肩を竦めて、店員がその場を去ろうとしたとき、二人に話し掛ける女がいた。

「あんた達、何やってんの?」
「「ノジコ!!」」

呆れ顔で立っていたのはナミの姉、ノジコだ。
慌ててチョッパーが事の次第を簡潔に説明すると、後ろにいたサンジが溜息を漏らす。
「お前ら、布団買えって言われてたんだろ?
 コタツなんて買ったら、ナミさんに怒られるだけだぜ?」
ブランドの紙袋をいっぱい提げたその両手を上にあげて、諦めろと促す。
「だってよー。冬なのにコタツがないなんておかしいだろ?」
ルフィは尚も諦めきれない様子だ。

「成る程ねぇ・・・あはは、いいよ。あたしが買ってあげる」
「ホントかっ?!」
二人の少年の瞳が突然輝きを増した。
「お姉さま、こんなクソガキの言うこと聞くことないですよ。
 こいつらすーぐ付け上がるんだから・・・」
「いいのいいの。それに、布団は確かに必要ないよ。
 あたしはしばらく泊まるだけなんだし」
店員さん、お願いとノジコが言うと、ようやく店員の男性は元の営業スマイルを取り戻した。

「ノジコ!お前、いい奴だな〜」
「お世辞言っても駄目だよ。その代わり、あんた達も買い物付き合って」

サンジが二人の時間を邪魔されて、ちっと舌打ちするのも構わず、ルフィとチョッパーは嬉しそうにおぅ!と返事した。

「で、お姉さま。ここに何を見に?」
昼食を終えて適当にドレスを買ってから突然このスーパーで最後の買い物をすると言ったノジコに連れられて来たはいい物の、ノジコは家具売り場をうろうろするだけで先ほどデパートで見せたような潔さがなかった。
「ああ、いや・・・うちも家具を買い替えなきゃと思ってね。
 見てただけだよ。お金とかも大体全部そろえたらいくらかと思ってさ」
「あぁ、お引越しですか?」
「ま、そんなとこ」

そんな会話をしていると、先ほどの店員が「市内ですから、今夜配達に伺います」と言って配達伝票の控えをノジコに渡し、「ありがとうございます」と頭を下げた。

「なぁノジコ、こっちこっち!」
いつしか彼らから離れていたルフィがノジコを呼ぶ。
3人がそこまで行くと、そこには子供部屋のモデルルームがあった。
「おいおいルフィ。こりゃお前用じゃねぇか」
「俺のじゃないぞ!」
ルフィが頬を膨らませて、座っていた勉強机の椅子から降りた。
「なぁ、ノジコ?」
そう言って、呆気に取られれていたノジコに顔を向ける。


「・・・な、何でわかったの?」

うろたえているかのような声を出すノジコの頬が、少し赤く染まっている。

「何でって・・・勘だっ!」
「勘・・・・」
はぁ、と息を吐いて、ノジコは苦笑した。

「なぁノジコ、何の話してるんだ?」
チョッパーが、下から不思議そうな目でノジコを覗き込んだ。
「ああ、あたしの赤ちゃんの話。今、3ヶ月なんだ」
「お、お、お姉さま!結婚なさってたんですかっ?!」
サンジの足元にドサドサッと紙袋が落とされる。
「結婚はまだ。ナミに話してからと思ってね。
 だからあんた達、このことナミに言っちゃ駄目だよ。
 あの子、何か今神経尖らせてるからさ。
 もう少し落ち着いたら話をするつもりなんだ」

一人跪いて項垂れるサンジを尻目に、ルフィとウソップが笑って頷いた。









「・・・・・・・まだか?」

寒空の下、一人空腹のままに見張りを続けるゾロの額に青筋が立てられていたことは誰も知らない。

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