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11 友




「いよぅ!ゾロ、待たせたな!!」
木枯らしの吹く中、駆け寄ってきたのはウソップだった。
その後ろを見れば遠くにナミが悠々と歩いてくるのが見える。

「何やってたんだよ、お前ら」
これこれ、とウソップが手にしていた紙袋をゾロの顔の前で振る。
「明後日ビビん家のクリスマスパーティーに招待されたんだぜ。
 それでナミが買い物に行くってんでな」
「あんたとウソップは今から貸衣装を見繕いに行って」
待たせたことなど露とも気にしていないのだろう、ナミが笑った。

「・・・それで俺を待たせてたってのか・・・?」
そう言うゾロの鼻頭はトナカイのように真っ赤になってしまっている。
腕を組んで寒そうに背筋を丸めたゾロを見て憐憫の情をもよおしたウソップが、既に冷たくなったハンバーガーを彼に渡した。
「歩きながら食べてね」とナミがゾロを追い立てるように手を振ると、舌打ちを残してゾロが立ち上がって、無言のままその場を立ち去ろうとした。

「おっおい!?ゾロ、そっちじゃねぇぞー!」
見事に反対方向へと歩を進めるゾロの背に向かってウソップが慌てて駆け出して行った。

そんな態度を取られると、ナミは余計に冷たい言動をしてしまう。
彼を存外に扱ってしまうのだ。
彼が一言でも謝ればいいのに、ノジコの事やロビンの事以外では口を聞こうともしない。
それならば、などと意固地になる自分に気付く。

(ゾロの馬鹿・・・)
何度目であろう。
その言葉をまた呟いて、ナミはポケットに入ったカイロをぎゅっと握り締めてレインディナーズへ続く階段をじっと見つめていた。



「お前らまぁ〜たケンカしてんのか?
 いや、まぁそりゃ二人のことに口出しはしねぇがよ。
 せめて俺らのいないとこでやってくれよ」
スタスタと歩くゾロの背に向かってウソップが話し掛けると、ゾロの眉が一つ上げられた。
「お前らのいる前じゃしてねぇだろうが」
「そりゃケンカ自体はな。
 でも6人のうち2人が口聞かなかったら、みんなの空気ってもんが・・・
 24日のパーティーぐらいは楽しみたいじゃねぇか」
「そりゃどうしても行かなきゃいけねぇのか?」
「当たり前だろ!お前行きたくねぇのか?
 ビビだってせっかく皆を誘ってくれたんだからな。
 行かないとか言うなよ!?」

ゾロは、頭をボリボリ掻いて渋々と貸衣装の店に足を踏み入れた。


悩むウソップを尻目に適当に服を選んで店を出てから、思い出したようにゾロが呟く。

「今回はあの女が悪い」

「ナミが何かしたのか?
 あ〜やっぱりあっちの色が俺様を引き立たせてくれたかぁ〜?」
スーツに頭がいっぱいの様子のウソップを見て、ゾロはそれきり口を噤んでしまった。

黙り込んでしまったゾロにようやく気付いて、ウソップはぽりぽりとその長い鼻を掻いてから言った。
「何があったか知んねぇけどよ。
 ケンカしたら謝ればいいじゃねぇか」
「だから、俺のせいじゃねぇのに何で俺が謝る?」
「そりゃ相手がナミだからな!」
人差指を立てて、ウソップが胸を反らした。
「世界一頑固で、世界一ワガママで、世界一自己中な女!
 その女と付き合ってるお前が悪い!!」
ゾロの口が真一文字に結ばれる。
「何だそりゃ」

「おいおい、そんな目で睨むなよっ!」
ゾロの目付きが鋭くなったことに気付いて、ウソップは慌てて両手を振った。
「そもそもお前だって・・・いや、まぁこれはいい。
 とにかく、こっちが悪かろうが何だろうが
 謝っちまった方がいいんだ」
「そもそも俺が何だ?言いたいことあるなら言え」
そう言って、ゾロは腕組みしたままその場で歩を止めた。
「・・・いや、だから・・・その・・・チョッパーに聞いたんだけどよ」

ゾロの左耳につけられた金色のピアスが小さく揺れた。

「お前、まだナミに好きって言ったことねぇらしいじゃねぇか」

「・・・・・・あァ?!」
予想しなかった答えに、ゾロの体から急に力が抜けてしまった。

「俺ならなー好きな女と付き合えたら、いくらでも言うぜ?」
ウソップは顎に手を当てて、しょうがない奴、とでも言いたげに頭を振った。
「それにナミは見た目があれだけレベル高ぇからなぁ。
 学校でだってかなりモテるんだぜ。
 そんな女が彼女だったら、引き止める努力ってもんも
 一応した方がいいんじゃねぇか?」
今度は頭を縦に振っている。
「・・・テメェ、さっき散々こき下ろしてたじゃねぇか」
「あ、ゾロ。そりゃナミには言うなよ!
 ・・・まぁでも俺らはナミの本性を知ってるけどな。
 それがナミのいいとこでもあり・・・まぁ、何だ。その・・・
 つまりだな、ナミは俺らの大事な仲間なんだから
 機嫌悪いとこは俺もチョッパーも見たくねぇなって話をしてたんだ」
「・・・・・・・」
ゾロがいよいよもって眉をひそめる。

「ゾロも大変だとは思うぜ?
 けどな、一言言ってナミが上機嫌になるなら
 安いもんじゃねぇか?
 ナミはその一言を待ってるってチョッパーがな」
「何でチョッパーが、んな事知ってんだ?」
「さぁ・・・俺もよく知らねぇけど・・・
 でもなぁナミがお前を困らせて喜ぶのは
 そこに原因があると俺は見てるぜ」
「・・・・・・・」

道端で俯いて黙り込んでしまったゾロにウソップは内心焦ってしまった。

(・・・よ、余計なこと言うなって殴られるとか・・・!?)

次の瞬間、ゾロの右腕が突然ウソップの首に回された。
「・・・っ!!!!!?」
冷や汗と涙と鼻水が一気に出て、ウソップが真っ青な顔で石のように固まった次の瞬間、その耳にゾロの声が届いた。

「テメェ、女もいねぇくせに!」

その声は、笑っていた。

ウソップがゆっくり目をゾロに向けると、ゾロがにっと口の端をあげた。

安堵して、ウソップも遠慮がちに笑う。



(ま、そんな事ァ口が裂けても言えねぇけどな)

「・・・ん?何か言ったか?ゾロ・・・」
「何でもねぇ」

言いかけた言葉を飲み込んで、ゾロはウソップと歩き出した。


ゾロにとって、こんな話ができる友達は今まで一人たりともいなかった。
例えそれが自分のためにならない話でなくても、自分の抱えている問題を気遣う相手がいるということが、ここまで心地良いものだったなどと、夢にも思わなかった。
1年前、2年前、いやもっと前から。
彼はそうやって他人と関わることを否定してきた。
友人は自分に不要なものだと思っていたし、友人がいるということは、弱者の証拠だと感じていた。
自分一人で何でもやっていけるのだと信じ込んでいた。
それがナミと出会って、一緒に暮らして、そして恋人という関係になってから、ゾロはただ一人で抱え込むということが難しくなった。
それは自分とナミ、二人がその問題に関わっているからだ。
一人、他人がそこに加わったというだけで、それは突然難題となってゾロに突きつけられる。
『自分が今、一体どうすれば良いか』
己の正義感を信じれば良いだけではない。
己の信念を貫き通すだけではいけない。
そこにナミという一人の少女が絡んだだけで、物事は大きく膨れ上がって、ゾロ自身もそれを持て余してしまう。

だがこのお節介な仲間たちは、見ていないようで見ている。
普段は二人の深いところに入らないように遠巻きにしていながら、ゾロがその難問の迷宮に入り込んでしまった時に、その道標を与えてくれるのだ。
彼らはそれを意識してやっているわけではない。
けれども、彼らと話していくうちに、ゾロの思考がある一定の方向へとそのベクトルを向けていく。
これが友ということなのかと、彼らに出会ってようやくゾロは知った。

ようやく深淵から少しずつ抜け出していく気持ちで、彼は笑っていたのだ。




「じゃあゾロ、お前は見張りに戻れよ。
 俺はルフィ達とナミの家に先に戻ってるから」
「おぅ」
「あ、ゾロ」

歩き始めてからウソップが振り返った。
「ナミの奴、お前の分のカイロもちゃんと買ってたぜ」

その声が聞こえているのか聞こえていないのか、ゾロは背を向けたまま、片手を振った。

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