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12 彼女の行方




見張りの場所を決めたのはナミだ。
レインディナーズがある地下へと続く階段は、思ったよりも表通りから離れているわけではなかった。
大通りから一本入るともうそれは見えてくる。
そこでそこより少し高台にある市立図書館の庭に備え付けられたベンチで、遠くから見張ろうということになった。遠くから、と言っても肉眼でどんな人が出入りしているかを確認できる位置だ。
図書館とレインディナーズの間にはオフィスビルが二つ、あるだけなのだ。
その二つのビルの間からちょうど地下へと続く階段を認めることができる。
図書館のベンチならば、相手の目に止まったとしても本を開いていれば怪しまれることはない。
その上、そのベンチは遊歩道沿いにあって、夜でも自由に往来できる。
何よりも今回はロビンの手掛かりを得たいだけなのだ。
あまりに近づいて、相手に知られてしまっては危険が増すばかりなのである。
オフィスビルと図書館に挟まれたそのスペースは、日中でもほとんど光が射さない。
冷たい木枯らしはビル風となって、容赦なくその小道で暴れている。
しかし安全性を考慮した結果、仲間達もここしかない、という結論に至った。

(でも、やっぱり寒かったわね・・・)
ぶるっと一つ大きく身震いしてナミは本を広げるために外していた手袋を鞄から取り出した。
せめて家に一度戻って、私服に着替えれば良かったのだが、もしもその間にロビンの姿を見逃してしまったらと思うとそういうわけにもいかない。
冷たい風に吹かれた膝を、暖かいフリースの手袋で摩って彼女はまた本を手にした。

その時、視界の端にスーツを着た男が二人、こちらに向かって歩いてくる姿を捉えた。

元々この図書館はオフィス街の真ん中にある。
決して怪しいわけではない。
だが、何かの違和感を感じる。
それが一体何なのか?


ナミの神経が彼らが一歩進むごとに研ぎ澄まされていった。

息を呑む。

しかし、それを悟られないように開いた本に目を落とした。
次第にその気配が近づいてくる。

あと1mという所まで来た。

だが、彼らは歩みを止めない。

一瞬、気が緩んだ時、ナミは違和感の正体を悟った。

(こいつら・・・足音が全然しない・・・!)

履いているのは、革靴の筈なのに・・・と、確認しようとして目を上げようとした時、彼女の口元が塞がれた。
ナミはそのぼやけた視界に、男のうちの一人の手が自分の口元にハンカチを押し当てている光景を目にした。

手荒に扱うな、という声が遠くから聞こえて、それを最後に少女の意識は途絶えてしまった。


++++++++++++++


ゾロは、ウソップに図書館の入り口まで送ってもらった。
図書館に入らずに遊歩道に沿って建物の右へと回る。

そうすれば、そのベンチにナミの姿があるのだ。

自分から折れるのは癪に触るが、彼女が話し掛けてくるなら、言葉を返すぐらいはしてもいいだろう。
大体、今、自分が怒っているのは彼女が自分を居候呼ばわりしたからだ。
確かに居候に違いないが、自分にいて欲しいと一片も思っている筈がない。
口うるさく言ったり、喧嘩の度にこちらの苛立ちを増幅させるような言葉を投げかけてきたとしても、本心から出て行けと言われた記憶はない。
だと言うのに、家族に自分を堂々と紹介しようとはしない。
それがどうにも気に食わないのだ。

だが、彼女自身が嫌いになったわけではないし、ナミが素直になればそれで自分の怒りは収まる。それまでのことなのだ。
自分が怒りを顕にすれば、ナミもつられてさらに意固地になる。
それならば少し態度を今よりも和らげてやってもいいかと思いながら、ゾロはレンガ色の図書館の縁に沿ってその角を曲がった。


しかし、そこに彼女の姿がない。


眉をひそめて、そのベンチに座る。

何かを買いに行ったのだろうか。

しかし、ウソップがこの場所に来るまでにナミとコンビニに寄っていたと言っていたことを思い出す。
彼女が寒いからカイロを買っていくと言ったから、と遅くなった責任を彼女に転嫁しようとして、学校を出てからの詳細を道すがら説明していた。
ナミに限って買い忘れということはないとも思う。

では何故、彼女がいるべきこの場所に彼女の姿がないのか。

一瞬、嫌な予感がしたが、それに気付きたくないのかゾロはナミが自分と二人になりたくないから、この場を去ったのかもしれないという推測で頭を満たす。
彼女のことだ。
大体自分がここへ戻る時間を予測して、家へと帰ったのかもしれない。

(あの女・・・───!)
チッと舌打ちして、ダウンジャケットに顔を埋めるようにして足を投げ出して背もたれに深くもたれかかって、見るべき場所をじっと見る。

変わりない。

そもそもバーなのだ。
昼に人が出入りすることなど皆無に等しい。
隠れた賭博場があるということは尚更だろう。
こんな日が高いうちから見張る必要があるのだろうか。
今日から仲間内の学生達は冬休みに入る。
見張りはそれから本格的に昼夜交替で行う予定だが、こういう事はおおよそ自分に向かない作業なのだ。
手っ取り早く中に乗り込んで、怪しい奴を全員殴って吐かせればいいだけの話。
ルフィも同じことを主張するはずなのだが、今回はナミが計画をほとんど立ててしまった。
それ故にゾロから見れば消極的すぎる見張りがメインの作戦になってしまったのである。

(これじゃ何もわからねぇ・・・後はジョニーとヨサクが頼りか)

ゾロの後輩のジョニーとヨサクも、引き続きロビンについて調べてみると言っていた。
それにかけるしかない、と考えてゾロはまたその入り口をじっと見ていた。



しばらくして吐く息の白さに気付いて、頭上を見上げてみれば真冬の空は既に薄暗くなりかけている。
今夜はたしかルフィとサンジ、ゾロが見張りをすることになっている。
どこまでもこき使ってと思ったが、夜が3人ということなら、3人が交代で寝ることもできる。それならばいいだろうと結局承諾した。
予定ではナミとゾロが見張りを終えて夕食に戻り、それから3人でまた見張りのためにここに戻る。
せめて酒さえあれば、体を暖めることができるのだが、今の自分にある物と言えば、ポケットに携帯電話が入っているだけだ。
ナミに本を読むように言われたが、本なんぞ持ったこともない。
そもそも自分のような男が本を読むなどとそれほど怪しい姿もないだろう。
そう思って、ゾロは何も持たずに家を出た。

迎えに来たサンジに口うるさく言われても気にも留めずに。
迎えになど来なくてもわかると言ったのに、サンジは「それじゃナミさんに俺が怒られるんだよ」と顔をしかめて、嫌々ながらという態でここまで送ってくれたのだ。

そんなことを思い出して、ゾロはふと思考を止めた。

そう。
ナミはゾロをすぐに迷子と言っては、一人で出歩けば仲間達に何故ついていかなかったのかと責める。
自分がいれば、率先して一緒に行くと言う。

『あんた一人だと、迷子になるのが目に見えてるのよ!』

いくら喧嘩をしても、ブツブツそんなことを呟きながら、彼女は必ず自分の前を歩いた。

そのナミが、今、ゾロを一人にして家に帰った。
有り得るか、有り得ないか。
通常なら有り得ない。
ただ、今回のケンカは自分から仕掛けたものであって、それだけに有り得ないとも言い切れない。

だがやはり、何かおかしい。

ゾロが灯された街灯の下、眉を顰めた時、突然ポケットの中にあった携帯電話が鳴り出した。


『おい、クソマリモ!テメェ何してやがった!?』

通話ボタンを押すなり、暗闇の遊歩道に響き渡るような声が届く。

「・・・ナミに何かあったのか?」
嫌な予感ほど、的中するのだ。
『やっぱり、テメェと一緒じゃ・・・』
「ここにはいねぇ。俺が戻って来た時には誰もいなかった」
『・・・何でそれを放っといたんだ!!このクソ野郎ッ!!!』

目の前にいたら、殴りかかってきただろう剣幕でサンジが悲痛な声をあげる。
「落ち着けよ。一体何があった?」
『お姉さまに奴らから電話があった。
 妹の身は預かった。データと引き換えにしてやるってな』
「・・・ナミはどこだ?」
『テメェの目の前の店だろうな。
 今ルフィがそっちに行った。
 でも、店に乗り込むな』
「あァ!?テメェ何寝言言ってやがんだ?」
『俺だってそうしてぇんさ!
 だがな、クソマフィアが少しでも怪しい動きがあれば
 ナミさんの命がねぇって言ってきやがった。
 俺らの行動なんかクソ筒抜けなんだ。
 わかったな?図書館の入り口で張ってればルフィが通る。
 捕まえて、すぐにこっちに戻って来い!』
「・・・んな脅し・・・」
『まだわかんねぇのか!?脅しじゃねぇ。
 アイツらはプロだ。俺らのことも知ってやがった!
 お姉さまの素性も全部調べてやがる。
 ここは一旦頭を冷やさなきゃいけねぇんだよ。
 わかったな。絶対戻って来い』

そう言って、サンジの電話は切れた。

携帯電話を持つ手を静かに下ろして、ゾロはじっとその店があるべき場所を見据えてから、歯を噛み締めた後に図書館の玄関口がある場所へと移動した。

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