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13 隙




20分もしない内に、暗闇の中を駆けてくる少年がいた。
ルフィだ。

「ルフィ!」
声を掛けると、その少年がゾロの前で立ち止まった。

「ゾロ!ナミがっ!!」
「・・・あァ。エロコックから聞いた」
まんじりともせずにルフィがまた走り出そうとした時、ゾロがその腕を掴んだ。
「・・・ゾロッ!?」
少年の顔に驚きと怒りの表情が瞬時に浮ぶ。
行かねぇのか、と言いたいのだろう。

行きたいに決まってる。
だが、サンジの言う通り、今までの相手と違うのだ。
おそらくルフィの動きも、自分の動きも全て監視されている。
相手を見張ることに集中していて気付かなかったのだ。
サンジとの電話を終えて辺りに気を配れば、確かに見られている気配を感じた。
それでも自分に倒せる程度の相手だとも思ったが、殴りこんだところでナミが既に奴らによって傷を負っていたら。いや、それだけでは済まない状況になっていたら。
歯軋りして悔やんでももう遅いのだ。

「・・・帰るぜ」
うめくような声をようやく出して、ゾロがルフィの瞳を見据えた。

ルフィはその黒い瞳でゾロの顔をじっと見つめていたが、しばらくして「・・・わかった」と呟いた。

そのまま無言で、彼らはナミの家へと続く道をゆっくりとした歩調で帰って行った。


++++++++++++++


帰るとチョッパーとウソップがほっとした表情で出迎えてくれた。
「ルフィ、ノジコが・・・」
ぼそりとチョッパーが呟く。

居間に行くと、ノジコとサンジの姿がない。

「ノジコ、さっき倒れたんだ。意識はあるし本人は大丈夫って言うけど。
 今ばあちゃん呼んだけど、赤ちゃん大丈夫かな・・・」
チョッパーが眉を顰めてナミの部屋を見る。
すると、そこからサンジが出てきた。

「サンジ、ノジコどうだ?」
ウソップが駆け寄る。
「寝ちまった。顔色はさっきよりは良くなってたぜ」
「あぁ、妊婦だからな・・・うちの母ちゃんもそうだったしな。
 すぐ寝ちまうんだ。なんかホルモンの関係とかで・・・」

ウソップには3つ子の弟がいる。
既に彼が大きくなってからできた弟だ。
彼もそれなりに母親がどんな状況だったかはおぼろげに覚えているのだろう。

「けどな、身体はマシになっても、この状況じゃ精神的疲労が増すだけだぜ」
そう言って、サンジがベランダへ出ようとすると、チョッパーが不思議そうな顔をする。
「サンジ、どこ行くんだ?」
「タバコさ。妊婦さんがいるのに一つ屋根の下では吸えねぇだろ?」

口元を緩ませて、彼がベランダに出た後、仲間たちに重い沈黙がのしかかった。

「・・・・ゾロが行った時にはもういなかったんだろ?
 奴ら俺らのこと見てやがったのか・・・」
「いつから・・・?」
「昨日・・・だろうなぁ。ゾロ、昨日ノジコと買い物行って気付いたんだろ?」
「・・・あぁ」
ウソップがう〜んと呻くように呟いて、両の腕を組んだ。

「昨日の今日か。やっぱ相手はプロだな・・・」
「どういう電話があったんだ?」
ゾロが聞くと、ウソップとチョッパーが顔を見合わせて二人で説明を始めた。


夕方。
ゾロに電話する少し前だ。

ノジコを囲んで、ウソップとチョッパー、ルフィ、サンジが赤ちゃんの話で盛り上がっていた。
ウソップは育児の手伝いなら俺様に任せろと言い、ルフィはその赤ちゃんを将来仲間にしようと言い、サンジは女の子なら俺がレディーに育てると言い、チョッパーは初めて産まれ立ての子供を見られることを期待して瞳を輝かせていた。

そして、そんな時にナミの家の電話が鳴った。

主であるナミがいない時は取ってはいけないと仲間たちが言われていたこともあって、その電話にはノジコが出た。

「・・・・もしもし」
「・・・・・・誰?」
「・・・何だって?」

声が突然低く静かになったことに気付いて、麦わらメンバー達がノジコを見ていると、ノジコもそれに気付いて電話機の「手ぶら」と書かれたボタンを押した。
相手の声が部屋中に響く。
その声の主は女だった。

『・・・い事は言わないわ。あなたが大人しくデータを引き渡せば彼女には何もしない。
 今夜1時、あなた達が見張ってる店に来てちょうだい。
 そうね、チョッパーくんという子がいるでしょう。
 彼にお願いするわ。
 それ以外の子が来たら、あなたの妹がどうなるか、わかっているわね?
 私たちに歯向かおうとしないで。データさえ引き渡せば、命は見逃してあげる』

一方的に言って、電話はそこで切れてしまった。

何も聞かされていなかったノジコは、そこで初めて自分の抱えるデータをマフィアが狙っていることを知った。そして、その為に麦わらクラブの皆が動き出していたことも。
それ故に自分の何よりも大切な妹が危地に立たされているということも。



「何で、チョッパーを知ってやがる?」
話を聞いて、ゾロが顔をしかめる。

チョッパーは、どちらかと言うとガリ勉タイプだ。
仲間内で最も弱いだろう。
最年少ということもあるが、それを差し引いても決してケンカに強くもないし、相手にとっては一番取引のしやすい相手だろう。
それを知っているということだ。
ナミが教えたのか?
いや、ナミはそんな事をペラペラと喋るとも思えない。
むしろ、年下のチョッパーをいつも気に掛けているナミが、何が起こるかわからない場所へ行く役にチョッパーが適任だと言うわけがない。
そんな時はさらりと嘘を吐ける女だ。

「・・・俺、あの声どっかで聞いたと思ってたんだがな・・・」
ウソップが言う。
「よくよく考えたら、ロビンだよ。あの声は・・・・・だろ?ルフィ」
ルフィがコクンと頷いた。

「ロビンなら、ナミとも仲が良かったし、俺らのこと知ってても・・・
 それに、文化祭の時に俺らを見てたかもしれねぇしな。
 俺らの話を他の生徒から聞いた可能性もある。
 つまり、俺らが探してた相手は、敵だったってワケだ」

「でも、ナミはロビンが・・・」
「それも芝居だったかも知れねぇんだ!
 ナミが世話焼きなとこに付けこんで・・・クソッ!」

「俺はそうじゃねぇと思うぞ」
悔しそうに俯いてしまったウソップに、ルフィが言った。
目を上げれば、ルフィは白い歯を見せて笑っていた。
「ロビンは俺らの味方だ!」

「何でそんなことが言えるんだよ?現に電話で・・・」
「それはわかんねぇ。けど、ロビンは悪い奴じゃねぇぞ!
 前にパン食わせてもらったことあるんだ、俺!」

はぁ〜と大きな溜息が部屋を包んだ。

その時、窓が開いてベランダでタバコを吸っていたサンジが部屋に戻る。

「で、どうすんだ?ルフィ」
そう言いながらルフィ以外のメンバーが皆呆れ顔になっている様子を見渡す。
「チョッパーに行かせるか?」


「・・・チョッパー、行けるか?」
ウソップが心配そうにチョッパーの顔を覗き込んだ。

「うん!俺が行く!!」
仲間の心配をよそに、チョッパーは明るく笑った。
「俺、ナミを迎えに行くんだ」
そう言ったチョッパーの頭をルフィがポンッと叩いた。
「頼んだぞ!チョッパー」
にっと笑うリーダーに、チョッパーもにっと笑って返した。

「おいおい、チョッパー。
 相手はマフィアだぞ!?人を殺しても何とも思わねぇ奴らだぞ?
 ルフィもさ、ここはじっくり作戦を練って・・・」
ウソップが一人、慌てて彼らに駆け寄ると、サンジが後ろから声を掛ける。
「ここで色々考えてもわからねぇさ、ウソップ。
 何かあった時のために、俺らは外で待ってりゃいい。
 おし、遅くなったがメシにするか」

未だ冷や汗を流してチョッパーを心配するウソップを尻目に、ルフィとチョッパーがメシだー!と両手をあげた。

(そんなこと言ってなぁ・・・チョッパーはまだ中学生じゃねぇか・・・)

そうだ。彼はまだ中学生なのだ。
例え自分とは1歳しか違わないとは言え、それでも一番年若い少年にそんなことをさせられない。
ウソップは顔をしかめてじっと考えた後に何か思い立ったように、いつもの部屋へと戻って行った。

ただ一人、ゾロだけが無表情のまま、じっと彼らの会話を聞いてからソファに座り何かを考えているようだった。


「クソマリモ、一人で乗り込もうとか考えてるんじゃねぇだろうな」
その背中に初めに声を掛けたのは鍋の下ごしらえを済んでキッチンから出てきたサンジだ。
「・・・テメェがやめろっつったんだろうが」
忌々しげにゾロが呟く。
「・・・なら、いいがな。
 無事にナミさんが戻ってくるならそれが一番なんだぜ?
 そこんとこよぉく覚えておけ、このクソ野郎」

フンと鼻を鳴らして、ゾロはまた口を閉ざした。

いつもの自分なら迷うことなく、そうしていただろう。
ルフィと共にナミを助けに行った筈だ。
だが、そうはしない。

以前、ナミが自分から自分を狙う男の元へ単身乗り込んだことを思い出す。
あの時のナミは逆上していた。
何をしでかすかわからない、その不安に身体を突き動かされた。

今回は違うのだ。
ナミは肝が据わっていて、どんな時も冷静に判断できる力がある。
ましてや逆上して相手の懐に飛び込んだわけでもない。
今は、その彼女を信じるしかない。
助けを待つだけの女なのではないと。

だから待つのだ。
不安にならないわけではない。
けれども、不安に押しつぶされてはいけない。
ただ成行きを見守るしかないにしても、彼女を信じるしか他に術がないのならば、そうするだけだ。

相手が自分を見張っていることに気付けなかった失態。
自分を責めてそのためにがむしゃらになれば、それが取り戻せるか?

否。

もし取り戻せるとすれば、神経を研ぎ澄まして今の状況の最善策を計るしかないのだ。


考えながら、ゾロは静かにただソファに座って、瞳を閉じた。

サンジがその背を見て、溜息をついてからまた食事の支度を始めたその時、突然インターフォンが鳴らされた。

「あ!ばあちゃんだ!!」
チョッパーがそう言って、勢い良くインターフォンに駆け寄った。


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