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18 罠



ナミはその瞳に少し涙を浮かべて、困ったように笑ったまま固まってしまっていた。

「ナミさん、何の話ですか?」
「ジョニーとヨサクよっ!!アイツらも捕まってたじゃないっ!」
「・・・いたか?チョッパー」
「俺わかんねぇ」
「ゾロは見たか?」
「いや、全然」

「バカッ!バカッ!いたじゃない!部屋の隅っこに・・・!
 ああ、そうか・・あんた達からだったらソファが邪魔で・・・
 アイツら、私たちのためにクロコダイルの身辺を調査してたらしくて
 逆に捕まったらしいのよ・・・!
 明日の夜、見せしめに海に沈めるとか何とか・・・
 クロコダイルを怒らせたから、もしかしたら今頃・・・!」

「今日はねぇだろ。
 とりあえずあの店にいた奴らは
 全員、しばらくは体を動かすのも辛ぇぐらいにぶちのめしたしな」
「おお!全員、動けなくしてやろうって言ってたからな!」
ルフィがようやく眠気を覚ましたのか、嬉しそうに手をぶんぶん振り回した。
「俺ァクソマフィアの骨を何本か折ってやった。
 当分は再起不能ですよ、ナミさん♪」
「強ぇなーサンジは!」

皆が明るくそう言いのける様を見て、ナミは溜息交じりにこう言った。

「あんた達ねぇ・・・アイツら縛り上げられてたのよ?
 クロコダイルがその気になれば、銃で撃たれて・・」

その時、ナミはスカートのポケットで震える物があることに気付いた。
携帯電話が鳴っている。
バイブ機能が、部屋に不気味な震動音を響かせているのだ。

登録された番号ではない。
けれどもこんな深夜に、このタイミングでかかってくる電話に否応なしにナミは生唾を飲み込んだ。

「・・・・はい?」

『ナミさん、私よ』

「・・・ロビン先生・・・」

ナミの声は小さく、静かだった。
だが、メンバー達は誰一人としてそれを聞き逃さず、皆が電話を持つナミに注視する。

『あなたのお仲間・・・と言っていいのかしら?
 あの情報屋の二人はローグ埠頭で消されるわ。
 決行は深夜0時・・・』
「・・・そんなっ!?アイツらは元々関係ないのに・・・!」
『仕方ないわ・・・あなた達がドンを怒らせてしまった・・・』

「・・・・!?」

『助けたい?』

「・・・そ、それは勿論・・・」

『そう・・・じゃあ私が手引きするわ。
 ローグ埠頭に4番倉庫があるの。
 時間になったらそこに来て。
 彼らをそこに連れて行くわ・・・』

「ロビン先生、どうしてそこまでしてくれるの・・・?
 ねぇ先生、そんなことしたら先生が危ない目に遭うんでしょう?
 クロコダイルは今、どこにいるの?」
『ドンなら今、用があって出かけてるわ。
 私を信用してちょうだい・・・じゃあ』
「ちょ、ちょっと待って・・・!先生・・・」

ナミがそう叫ぶと同時に、電話は切れてしまった。

携帯電話をじっと見つめて、ナミは大きな溜息をついた。
ふと目を上げるとそんな彼女の姿をじっと見るメンバー達がいる。

ナミは会話を一言一句漏らすことなく彼らに伝えた。

「・・・ロビンはやっぱり俺たちの味方なのか?」
チョッパーが眉をひそめると、ルフィは「だからそう言ってるだろ!」とその頭を軽く小突いた。
「でも、どうやってクロコダイルの目を盗んで
 ジョニーとヨサクを俺たちの所へ連れて来るつもりなんだろうなぁ?」
ウソップがう〜んと唸ると、ナミが躊躇いがちにその考えを述べた。

「・・・多分、罠だと思う・・・
 だって、ロビン先生がクロコダイルの事『ドン』って呼ぶの、初めて聞いたわ。
 私の前ではいつも『あの人』とか、『クロコダイル』って呼んでるの。
 きっと、クロコダイルに言われた通りのことを伝えてるだけなのよ・・・
 だから・・・でも、他に方法は・・・」
「ねぇな」

その言葉に、自分の足元をじっと見ていたナミが顔を上げた。
目が合った瞬間、ゾロが口の端を上げて笑った。

「そこに行くしかねぇんだろ?」
なぁルフィ、とドアに持たれかかっていた少年に話を振ると、彼も当然のように笑って頷いた。

「でも、罠かも知れない・・・
 ううん、ロビン先生は罠だから来るなって言ってくれたのよ、きっと・・・」
「かと言って、ジョニーとヨサクを見捨てるわけにもいかねぇ」
ウソップはそう言って、口を真一文字に結ぶ。

「まぁとにかくやるだけやりましょう。
 ナミさんは俺が守りますから♪」
サンジはそう言って、ナミの肩に手を置いた。

ナミはそれを振り払う力もなく、そのまま小さく頷いて、勉強机の椅子に腰掛けた。
そんなナミの顔を覗き込むようにチョッパーが尋ねる。
「なぁナミ。ジョニーとヨサクは自分で逃げられねぇのか?」
「・・・私がいる間は、意識がなかったみたいだけど・・・
 すごく怪我してたみたいだし、二人共縛られてたから」
「そりゃアレだ。狸寝入りだ」

ゾロがそう言って、布団にもぐりこんだ。
「心配してもどうにもならねぇ。
 罠だとしても、そこまで行きゃいるってことだ。
 アイツらだって多少は自分を守る術ぐれぇ心得てるさ。
 一応あっちの世界に生きてるんだからな。
 俺はもう寝るぞ。テメェらも明日のために早く寝とけよ」

言うが早いか、ゾロは大口を開けて、そのまま眠りについた。

「・・・そんな、無責任な・・・」
しかめッ面で寝てしまったゾロを見ているナミの肩を、ルフィがぽんっと叩く。
「ゾロが一番アイツらの事わかってんだ。
 明日、行けばわかるさ。
 とにかく今日はもう寝ようぜ!」
な、と言って、ルフィも一つ欠伸をしてからサンジとチョッパーを連れて部屋を出て行った。

パタンと閉じられたドアを見て、ナミはまた肩を落とす。

(そんな事言って・・・今、ジョニーとヨサクがどうかなってたらどうするのよ?
 しかも、罠だとわかってて、そこにのこのこ行けるわけもないのに…・)

しかし、自分一人でどうこうできる問題でもない。
ルフィが明日行くと言えば明日行くのだ。
それが麦わらクラブの暗黙のルール。

諦めたような力ない足取りで、ナミはとぼとぼとクローゼットの前へ行って、半日以上着ていた制服を着替えようとブレザーを脱ぎ始めた。
そっと肩越しにベッドで寝ている男を伺えば、彼は瞳を閉じたままだ。
起きていたら部屋から叩き出すところだが、今なら寝ている。
バスルームまで行って着替える気力もない。
念のため、と思って部屋の電気を消して、ナミはそのブラウスのボタンに手を掛けた。
一つ一つ、静かにボタンを外してそれを脱ぎ去ると、カーテンの向こうから冬の澄み切った空を通ってきた月の光が明るくその白い肌を暗闇に照らし出す。
さすがに真夜中、暖房もつけていない部屋の空気は外気とさほど変わらずに肌を刺す。
スカートと靴下を縫いで、下着しか身に着けていない格好になってナミははっと気付いた。

(パジャマ・・・タンスの中じゃない・・・)
その部屋は入ってドアの右側にクローゼット。
左に着替えを入れたチェストが置いてある。
そして、そのチェストはゾロが寝ているベッドの足元。

ゾロからは見えないようにクローゼットの扉に身を隠しながら、ナミがその男の気配を伺う。
すやすやと気持ち良さそうな寝息だけが部屋の中に響いていた。

無理もない。
ナミは薬品によって6時間ほど寝ていたのだ。
例え強制的な眠りだったとしても、体の疲れは一睡もしていない彼らと違って、おおよそ癒されていた。
ゾロは今日一日、外で見張りを続けていたのだ。
疲れていて当然だろう。

安堵の溜息を漏らして、ナミはあられもない格好のまま、それでもゾロに気付かれないために四つん這いになってチェストへと這って行き、ようやく目的のパジャマを手にした。

「・・・奴らに何もされなかったのか?」

寝ていた筈の男の声が突然響いて、慌ててパジャマで胸元を隠す。

「起きてたのっ!?」

その問いかけに、ゾロは何も答えず、ゆっくりと体を起こした。
「何だテメェ・・・誘ってんのか?」
ようやく今のナミがどんな姿をしているのか気付いたらしい。
顎に手を当てて、じっとその白い肌を見る。
「ちょっと!やらしい顔してないで、向こう向いてよ!
 早く着替えたいんだから・・・!」
「着替えりゃいいじゃねぇか」
にっと口の端をあげて笑うゾロに、ナミは暗闇の中、一人顔を赤くして慌てふためいた。

「バカッ!あんたがこっち見てたら着替えられないでしょ?
 寒いんだから、早くっ!」
「せっかく脱いでんだから別に着なくても・・・」
「いいから早く!!!」
ナミの剣幕に押されて、ゾロは渋々布団に体を横たえた。

素早く衣服を身に着ける衣擦れの音がした後、今度は布団を捲り上げたナミが
「もっと向こう行って!」
と目の端を吊り上げた。

「これ以上行けるか」
そう言って、ゾロが自分の真横にある白い壁をコンッと叩く。
「横向けばいいじゃない」
ナミがその細い腕を腰に当てて、ふんっと鼻を鳴らした。

その姿を見ていたゾロは、溜息を漏らしてからナミに背を向けた。
ようやくナミもその体をベッドの上に落ち着ける。
ゾロに背を向けて、ナミは今日のことを思い出した。

あの時、ゾロは何と言ったのか。

『あァ・・・できたけどな?』

人を殺せるかというクロコダイルの問いかけに、ゾロは確かにそう言った。

それはもしやゾロが以前言っていた『思い出したくない過去』のことだろうか?
胸にある傷跡も、それに関係したものではないだろうか。

ナミはくるんと体を返して、背を向けたままのゾロのその後ろ頭をじっと見詰めた。


(ゾロ、あれは本当?)

(訊けば教えてくれる?)

(・・・何を抱えているの?)

頭の中で、たくさんの疑問が浮んでは、それを言葉にできないままに消えていく。

訊いてどうなるわけでもない。
もしも、思い出したくない過去というのがそれだとしたら、尚更訊く勇気が出ない。
隣で寝ているこの男が、自分に言おうとしないその過去が気にならないわけではなかった。
いつか、折りがあれば言ってくれるだろうと思っていた。
今がその時・・・───?

訊くべきか、訊かざるべきか、迷うナミが暗闇の中眉をひそめたその時、突然背を向けた男が口を開いた。

「・・・なんだよ。訊きたいことでもあんのか」

(何でこいつ、こういう時ばっかり鋭いのよ・・・?)
見られているわけでもないのに、焦るような表情になってナミは小さく首を振った。

「別にないわよ」

「へぇ。じゃあ・・・」
ゾロがナミの方へと体を向ける。
せまいシングルベッドの上で彼らの体が自然と寄り添うようになって、布団から出たままのゾロの腕がナミの腰の上に置かれた。

「何を見てんだ?」

「見てないわよ。明日のことを心配してるだけ・・・」

ほぉ、と大仰に納得して、ゾロは瞳を閉じた。

「・・・ま、大体わかるけどな。俺ァ嘘は吐かねぇ主義だ」

「それって・・・」

ナミが顔を上げようとすると、ゾロの腕がその頭の後ろに回されて、ナミはそのままゾロの胸に顔を押し付けられた。

「寝ろ」と、呟いてゾロが優しくその体を抱き締める。

(訊くなってこと・・・?)

ナミは冷たい身体が彼の熱でじわりと暖かくなっていくのを感じながら、それ以上は訊けずにそのまま目を伏せた。

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