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24 窮地

 
ガンッという音がして、クロコダイルの背後に立った少年は、その黒い瞳でナミの顔を見据えていた。
「ルフィ・・・」
ふっと銃を持っていた手の力が緩められる。
次の瞬間、クロコダイルがその懐から何かを取り出そうと、左腕でナミの腕を掴み、右腕をコートに隠された胸ポケットに入れた。
が、その男の巨体は一瞬で吹き飛ぶ。
ルフィによって殴られたその男の口からすっと一本の赤い血が流れ落ちた。
「コイツは俺がやる」
「ルフィ、あんただけで・・・」
「俺がやるっ!!」
その気迫に気圧されて、ナミはビクッと肩を竦めた。
少年は、クロコダイルを睨んだままナミを決して見ようとしない。
その姿にナミは息を呑んでから、コクンと頷いて階段を駆け下りた。

カン、カン、とブーツの踵が鉄骨の階段を鳴らして階下に下りると、そこにはようやく縄の拘束を解かれたジョニーとヨサク、そしてウソップと、クロコダイルの護衛をしていた二人にとどめを刺したゾロがいた。
「先生は?」
「サンジが外に連れてった。
  ルフィが二階にいただろ?」
「・・・クロコダイルをやっつけるって・・・」
「そうか。じゃあ、行くぞ」
それ以上、何を聞くまでもなくゾロはナミの腕を引っ張って薄まりつつあった黒煙の中を走り出した。
この倉庫の最奥から入り口まで、直線で50mほどもない。
「隠れてた奴らは?」
短い距離の間ゾロに聞けば、煙の中微かに見えるその男は確かに笑っていた。
「しばらくは気ィ失ってるだろ」
(コイツらにかかったら、銃なんて必要ないわね・・・)
全くもって呆れた仲間達だ。
もっとも、ウソップの煙幕がなければ、いかに彼らとて今頃どうなっていたかはわからない。
だが不思議と怖れることはなかった。
それは、この仲間達に絶対の信頼を持っているからだと、ナミは悟っている。
(ルフィ、信じてるから・・・───!)
ぎゅっと瞳を閉じて、ナミは倉庫から飛び出た。

途端に潮の香りと暗闇の中、波打つ音が微かに響き渡る静かな埠頭の冷たい空気がナミの肌に突き刺さる。
50mほどとは言え、全速力で駆け抜けたのだ。
荒い呼吸を抑えることができずに、ナミは膝に両手をつけて、かがんだまま肩で息をした。
ほどなくして、その黒煙を身に纏ってウソップ、ジョニー、ヨサクが駆け出してくる。
「サンジくんと・・・ロビン先生は・・・?」
ナミが辺りを見渡した時、突然倉庫の中でドォンッという轟音が響いた。
「・・・・・・!?
  な、何・・・・?」
振り返ると、倉庫の二階の窓から、その中に赤い光が見える。
「・・・・・・嘘・・・・」
その光景に皆が息を呑んだ。
入り口の大きな扉の上に『4』という数字を掲げたその灰色の倉庫の中で赤い炎が次第に湧き上がっていく。
「あそこに置いてあった箱まさか・・・火薬が入ってたのか・・・?」
ウソップがごくっと生唾を飲み込んでその爆発と共に大きくなる炎から目を離さずに立ち尽くした。
「あああ〜〜〜〜ルフィの兄貴―!!!」
ジョニーとヨサクが痣だらけの顔に涙を流しながら、手をついてその燃え上がる炎を見ていた。
いつしか炎は窓からも見えるほどにはっきりとその姿を現し、ほどなくして窓ガラスがその熱で割れる音が響く。
ナミは傍らにいた男のジャケットをぐっと握った。
(あの時と、同じ・・・)
あの時。
ベルメールさんが永遠にいなくなってしまったあの日。
そう。あの日も自分はこうしてただ炎の前に佇んで、大切な人の命が絶たれていく絶望だけを感じることしかできなかった。
 
「もう爆発の音がしねぇ・・・ありゃ、アイツらが持ってた銃か?」
「ルフィの兄貴は・・・この炎じゃ、クロコダイルを倒しても・・・」
「・・・逃げ道がねぇ・・・」
「・・・信じろ」
ゾロが言う。
「アイツなら、大丈夫だ」

その時、炎に捲かれて一人の男が飛び出てきた。
金の髪が炎を受けて、赤い色に染まっている。
「サンジ!」
ウソップが駆け寄ると、サンジが熱で焦がされたタバコを口から外して言う。
「ロビンちゃんが・・・っ!!」
「・・・・・っ!!」
途端に血相を変えたナミがサンジに詰め寄った。
「ロビン先生が・・・何っ!?サンジくん、先生はどこっ?」
「それが、いきなり倉庫の中に戻って・・・
  爆発で姿を見失っちまった・・・っ!!」
ゲホッと一つ大きく咳き込んで跪いたサンジが皆が駆け寄った。
「爆発の前にクロコダイルの笑い声が聞こえた。
  こりゃ、仕組まれてたんだ・・・
  ロビンちゃんはそれを知ってて止めに行ったのかも・・・」
「おい、サンジ!煙吸ってんだ!もう喋るなよ!!」
そう言ってウソップがサンジの肩にかかった灰を取り払う。
「・・・ナミッ!!」
ゾロが突然叫んだ。
一同が顔を上げると、大きな炎の中へと飛び込んでいく少女の後姿が目に入った。

「あの野郎・・・ッ!」
そう言って、ゾロも続いて炎の中へと入って行く。
「あ・・・兄貴・・・ッ!!」
ヨサクが叫んで止めようとしたが、その声は業火の音にかき消された。

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