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26 還る場所

 
「・・・おぅ。気が付いたか?」
目を覚ますと、いつになく不安げに自分を覗き込むゾロの顔があった。
「・・・ゾロ・・・」
そう言って体を起こそうとすると、今まで寝ていたからだろうか。
やけに体が重い。
消毒薬の匂いがつんと鼻について、顔だけを動かして部屋を見渡すと、そこは見慣れたナミの寝室だった。

「・・・私・・・?」
「チョッパーが言うには、多少煙吸ってるけど手の火傷よりはマシだと」
言われて、布団の中にある両の手がじんとした痛みを帯びていることに気付く。
(そうか・・・ガラス窓も熱かったから・・・)
はっとして、ナミはまだ調子の出ない身体に力をいれて、上半身を起こした。
「・・・ロビン先生は・・・ッ!?」
ベッドサイドに座るゾロの袖を引っ張る。
「・・・・・・無事だ」
「・・・無事?」
「あァ。あのエロコックが連れて帰って来た」
ゾロの拙い説明によると、自分達が倉庫に入った後、サンジは来る時に通った道に幾つかの箱があったのを思い出した。
そしてジョニー達やウソップと共にその荷を積み上げて、何とか5番倉庫の屋根に飛び移り、そこから火が回っていないと思われる部屋めがけて飛び込んだのだと言う。
幸運にもその部屋こそがロビンとクロコダイルがいたあの機械室で、サンジは抵抗するロビンを小脇に抱えるなりまたその窓から今度は地上に向かって飛び降りた。
2階の窓から飛び降りるということは、案外できることなのだ。
通常ならば、着地に失敗して骨折ということもある。
だが、それに失敗さえなければ、足に酷い衝撃を感じるものの、やってできないことはない。
「・・・女が絡んだら、アイツは異様なほどリキむからな・・・」
ゾロがそう言って笑うと、ナミはようやく安心してぽろぽろ涙を流した。
「・・・良かった・・・」
心底から、嬉しそうに呟いて、彼女は掴んでいたゾロの服を離して、次に麦わらクラブのリーダーを思い出す。
「ねえ、じゃあルフィは?大丈夫なの?」
「・・・あれぐれぇでくたばるタマかよ」
ゾロの心配にも関わらず、ルフィはただ寝ているだけだった。
チョッパーの話によると刺し傷からの出血もそう酷くなく、何よりも今回のことに自分達麦わらクラブが関わっていたと表沙汰にすることもできない。今日、くれはに診てもらおうという事になっているのだと言う。
ナミの顔に安堵の色が浮ぶ。
ゾロの話によると、一番怪我が酷いのはジョニーとヨサクだ。
ジョニーは腕が折れているし、ヨサクは肋骨を数本やられている。
それ以外にも打撲が多く、この二人はすぐに救急病棟に連れて行った、とゾロが説明した。
「ねぇ、じゃあロビン先生は今どこ?」
「ウソップの部屋だ。もう起きたんじゃねぇか?ラブコックが付きっきりだぜ」
そこでようやくナミは既に日が高くなっていることに気付いた。
時計を見れば、長い針が10時を指している。
「ゾロ、ずっと起きてたの?」
「・・・人の気も知らねぇでぐーすか寝やがって・・・」
そう言ってゾロが欠伸をした。
「ごめんね。もう寝てちょうだい。
  私、ロビン先生とルフィを見てくる」
ゾロが素直に頷いて、ナミと交替でベッドに入ったかと思えばすぐに鼾を掻いて寝てしまった。
顔や服も、すすだらけで黒くなっている。
風呂にも入らないでずっとナミを診ていてくれたのだろう。
その額にそっと口付けを落として、ナミは静かに部屋を出た。
「ナミさん、お目覚めですか♪」
「サンジくん!」
その青年はダイニングテーブルでコーヒーを飲んでいた。
「良かった・・・今、ゾロに話を聞いたわ。
  サンジくん、本当にありがとう」
ぺこっとナミが頭を下げるとサンジがいつものようにおどけたような表情で
「いえいえ、ナミさんに『よろしく』と言われたからには・・・♪」
と明るい声で言った。
「サンジくん、ロビン先生は・・・?」
「・・・全然寝れなかったみたいで、ついさっき・・・」
「そう。良かった・・・サンジくんも寝てないんでしょう?」
「いや、俺ァ寝ましたよ。逆にロビンちゃんに毛布をかけてもらっちゃって・・・♪
  あ、ナミさん、嫉妬しないでくださいね♪♪♪」
「しないわよ・・・で、アイツらはあそこで寝てるのね・・・」
襖が開けられたままの和室では、隅に寄せられたこたつにウソップとチョッパーが。
部屋の真ん中にはルフィが布団の中でいびきをかいていて、その横に並べて敷かれた布団からはノジコのふわっと波打つ髪が僅かに見える。
「ノジコは、大丈夫だったの?」
「俺らが帰る前にチョッパーが無理やり寝かしたそうですよ。
  ウソップの話だと、妊婦さんはホルモンの関係で眠たくなるみたいで
  すぐに寝てくれたって言ってましたけど・・・」
「良かった。じゃあ、変に心配かけなくって済んだのね?」
「ナミさんのお姉さまですから♪」
それって関係あるのかしら、とナミが言うと、勿論♪とサンジが答えた。
「ナミさん、ロビンちゃんの事なんだけど・・・
  昨日、還る場所がないって寂しそうに言ってましたよ」
サンジが用意した朝食の匂いにつられて、ウソップとチョッパー、ノジコが起きてきた。
食事の間、皆がノジコに昨晩のことを説明し、それがようやく終わった頃にサンジがコーヒーを手に、その言葉を口にした。
「何でも、学校を辞めてすぐに住んでたマンションを引き払って
  今はホテル暮らしだったみてぇで・・・」
「・・・クロコダイルは、どうなったの?」
サンジは無言で朝刊を手渡した。
そこには大きく【マフィアの首領、焼死体で発見!】と見出しが出ていた。
中の記事には、昨晩ローグ埠頭の4番倉庫で爆発、火事があったこと。
幾つかの焼死体の中にクロコダイルと思われる遺体があったこと。
そして、それは対立組織との抗争によるものではないかという説が有力だという推測が書かれていた。
「・・・・・・そう・・・」
眉を顰めたまま、ナミはその新聞をテーブルに置いた。
一同がそれを見つめたまま沈黙する。
「まぁこりゃ自分で爆破したんだから、自業自得とも言えますけどね・・・」
「でも、ロビン先生がホテルに戻っても、
  店に戻っても、警察にあれこれ聞かれちゃうってことよね・・・」
まがりなりにも、ロビンが組織でナンバー2の座にいたことは事実だ。
「・・・しばらく、先生は身を隠していた方がいいかもしれないわ・・・」
「それで、考えたんですけど・・・俺の家に連れて行こうかと思って」
「「「「・・・・はぁ?!」」」」

突然のサンジの提案に、皆が気が抜けたような声を出した。
「俺の家なら、職もあるし・・・クソジジイが女でカウンター業務できる人を探してますしね。
  ロビンちゃんならぴったりじゃないかと思って♪
  家もクソジジイと二人だから部屋は余ってるし♪♪♪」
どこか弾んだサンジの声に、ナミが眩暈を覚える。
「それは・・・でも、ロビン先生がいいって言うかしら?」
それに何より、女好きのサンジと一つ屋根の下、暮らすだなんて・・・
一同の心に同じ思いが駆け抜けていく。
(それは絶対にヤバイと思うけど・・・?)

「あぁ、ロビンちゃんならもうOKもらってます♪」
「「「「えぇっ?!」」」」
その言葉に、その場にいた者達は二度驚いた。
ナミが不安げな顔でサンジを見ると、その視線に気付いたサンジは頼もしそうな顔で笑った。
「大丈夫ですよ♪任せてください!」
心配そうなナミさんも素敵だ〜♪と嬉しそうに言って、サンジは皆の空いたマグカップを片付けにかかった。

「どう思う?ナミ・・・」
ウソップがこそっと耳打ちすると、ナミが溜息をついて言った。
「どうもこうも・・・ロビン先生がいいって言ってるんだもん。
  私達がどうこうできることじゃないわよ」
鼻歌を歌いながら、カップを洗い始めたサンジの姿を見ながら二人が目を見合わせた。

++++++++++++++

「・・・あ〜〜〜〜よく寝た!」
ルフィが起きた時、既に時計はおやつの時間を指していた。
ウソップは今夜のパーティーのためにカヤを迎えに行くと言って、チョッパーと出かけていた。
サンジはロビンもどうしてもパーティーに連れて行くのだと言い張り、いつ聞き出したのかビビに素早くその旨を電話で伝えて了承を得ると、半ば強引に彼女を連れて買い物へと出て行った。
ノジコは今夜のために、なんて言いながら、また昼寝をするために玄関脇の部屋で午睡をしている。
ゾロはと言えば、まだ起きてこない。
結果、ナミがおなかが空いたと起きた途端に駄々をこねるルフィのために、サンジが用意しておいた食事を暖めることになった。
「ルフィ、あんた今夜はパーティーに呼ばれてんのよ?
  今あんまり食べたら、美味しい料理が食べられなくなっちゃうからね」
「大丈夫だぞ!ちゃんと食べれるぞ!!」
「・・・ま、あんたなら確かにいけそうね・・・」
用意された食事をモリモリとたいらげていくルフィを横目で見ながら、ナミはココアを口に含んだ。
甘い味と香りが口の中で満たされていく。
「ね、ルフィ。昨日はありがとう」
不意に、優しい声でナミが言った。
「・・・何がだ?」
「クロコダイルのこと・・・私の代わりに奴をやっつけてくれて」
「あぁ!」
思い出したようにルフィが掌にもう片方の握った拳をポンッと置いた。
「ナミ、もう駄目だぞ」
「・・・・・何が?」
今度はナミが不思議そうに首を傾げる。
「人を殺すなんて、思っちゃ駄目だ」
「・・・あの時は、本当にそう思ったのよ」
「でも、駄目だ。ゾロが知ったら悲しむぞ!」
「・・・・・・・ルフィ、あんたゾロの過去を知ってるの?」
再三、ゾロが話すことを拒むその過去。
一体何があったのだろうかという好奇心がないわけでもない。
けれども、それを尋ねようとしても、その話になった時のゾロのあまりにも切ない瞳を見ては、彼女はそれ以上言葉を紡ぐことができなくなるのだ。
「過去なんて、興味ねぇ!
  でも、ゾロはそれで苦しんでるじゃねぇか。
  その上お前まで同じ目にあったら、ゾロは悲しむだろ?」
その通りだ。
(ほんと、コイツって見てないようで見てるのよね・・・)
「あんたって、変な奴」
そう言ってナミが笑うと、ルフィは「変か?」などとトボケた声を出して首を捻った。
「いいモン食ってるじゃねぇか」
ようやく起きたゾロが伸びをしながら部屋から出て来る。
「ゾロ、早くお風呂入っちゃいなさいよ」
ナミがそう言って用意してあったベッドリネンを手にして、部屋へと向かった。
「先に何か食う」
「駄目。汚いんだから。ルフィだって我慢して食事の前にシャワー浴びたのよ」
事実、少年はナミに言われて案外素直にバスルームへと入って行った。
特にルフィは傷口から出た出血などで拳に固まった赤黒い血がついていたのもある。
「あぁ、もう・・・洗濯物が増えちゃう・・・」
ナミが首を振っていかにも嫌そうに呟くと、その不満がようやくゾロに伝わったのか、渋々と彼もバスルームへと向かった。
「ナミ、今週は晴れるってテレビで言ってたぞ。
  今からすればいいじゃねぇか」
未だモグモグと口を動かすルフィが、取り替えたシーツを両腕で抱えて部屋から出てきたナミに言う。
「・・・ハズレ。今日は夜から雪よ。しばらく降り続くと思うわ」
「何でわかるんだ?」
「勘よ、勘」そう言ってナミは窓の外をじっと見た。
「風がそんなに出てないし・・・明日には積もるかもしれない・・・」
「ホントかっ!?雪だるさん作れるかっ!?」
「何よ、そのゆきだるさんって・・・」
「雪だるまだ!」
ガクッとナミの肩が落ちる。
「・・・ま、小さいのなら作れるかもね。
  とにかく、洗濯してもしばらくは干せないし・・・
  こんだけ大物ばっかだと乾燥機の電気代も考え物だわ」
はぁ、と大きく溜息をついて、ナミは汚れた洗濯物を置くためにバスルームへと向かう。
軽くノックしてみたが、返事はない。
ゾロはかなり長湯する。
おそらく中で寝ているのだろう。
ナミも、お風呂でゆっくりするのが好きだからそれをどうこう言うでもない。
とにかく彼が上がって来ないうちに、この汚れたシーツを洗濯籠に放り込まなければ・・・と、ナミはバスルームの引き戸を開けた。
水音がしない。
(やっぱり、中で寝てるのね・・・)
ほっと安心して、洗濯籠にシーツを入れようとしたその時、突然浴室の扉が開いた。

「・・・・・・何だ。一緒に入りたかったのかよ?」

固まってしまったナミを気にも留めずに、ゾロがその身体から湯気を立ち上らせて浴室から一歩踏み出そうとした時、ナミの絶叫が家中にこだました。
「きゃあああああああっっっ!!!」
 
 
思いっきり、持っていたシーツをゾロに投げつけて、真っ赤な顔をしたナミがバタバタとバスルームの扉も閉めないままに逃げてしまった後、彼は片眉を上げて「何だよ、人を化物みてぇに・・・」と不満げに呟いた。



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