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3 隠し事




翌日、12月20日は驚くほどの快晴だった。
「今日は暖かいわね」と、ナミが嬉しそうに洗濯を干していると、来客を告げるチャイムが鳴った。




「お久しぶりです。姐さ・・・イダダダダッ!!」
顔を合わせたばかりの男の顔を、ナミが思いっきり抓った。
「その呼び方はやめてって言ってるでしょ?」
そう言いながら、ナミは居間へと彼らを案内した。
情報屋のジョニーとヨサクは、ゾロに頼まれたとあって早速クロコダイルに関する情報を集めていた。

「これは調べるまでもねぇ、この業界じゃ有名でしてね。
奴がこの街に来た時の居場所でさ」
そう言って出された紙は、黒いチラシだった。
「何?・・・『BAR レインディナーズ』?
 こんな所にこんなお店あったのね」
チラシの隅に書かれた地図を見て、ナミが眉をひそめる。
その店は、繁華街より少し離れたオフィス街の一角の地下一階にあると記載されている。
オフィス街自体、学生のナミが行くことも少ないのだが、それでもナミの頭には大抵の地図が入っている。
一度見た店や、その看板を忘れることがない。けれども、このバーについては全く頭に残っていなかった。

「看板なんかは一切出てやせんし
 そもそもそこはバーとは名ばかりの賭博場でしてね。
 黒服がバーの奥に続く扉を守ってて
 一般人は足を踏み入れられません。」
ジョニーがそのサングラスをくっと指で上げて、脂汗を浮かせた。
「まさか・・・兄貴、ここに乗り込むつもりじゃ・・・」
「当たり前だろ?じゃなかったらお前らに・・・」
「あんたは黙ってなさい!」
ナミが腕組みしてふんぞり返った男の頭をはたいてその口を閉じさせた。

「私達だって、今回はさすがに無茶しようなんて思ってないわよ。
 平気で人を殺す奴相手になんかできないもの。
 ・・・ただね、ロビン先生が無事ならそれでいいのよ。」
「ああ、その女ですがね。
 もしかして黒髪の背が高くてスラッとした・・・」

「知ってるのっ!?」
ヨサクの言葉を遮って、ナミが椅子から立ち上がった。

「いやぁ知ってるも何も・・・そりゃクロコダイルの右腕の女でさ」
「そうそう。実質的には組織の権力を握ってるのは
 その女って噂もあるぐらいで・・・」
「じゃ、ここに行けばロビン先生に会えるのね?」

ナミの高揚した声が部屋に響き渡ると、突然、ジョニーとヨサクは目を見合わせて黙ってしまった。
重い沈黙が続いて最初に口を開いたのはゾロだった。
「何かあんのか?」

ジョニーが渋々といった様子でそれに応える。

「いやね。その女が最近ヘマやらかして
 クロコダイルが怒ってるって噂がありやして」
「一部の情報だと、その女は今監禁されてるらしいんす。
 もしかしたら、もう殺られちまった後か・・・」

「ちょっと!いい加減なこと言わないでよっ!!」
大きく一つ、テーブルを強く叩いてナミが立ち上がった。
「・・・いい加減なこと・・・」

呟くように再度その言葉を言って、ナミはダイニングを後にし、自室へ入って行った。
その背を見て、ジョニーとヨサクは困ったように顔を見合わせた。

「気にすんな」
「ゾロの兄貴」
手に持っていたコーヒーを飲み干してゾロが左の眉を上げて言う。
「あいつもわかってんだ」

何ら気に留めることはないという態でマグカップを口にするゾロを見て、二人が安堵の表情を浮かべた。
「でもゾロの兄貴。やっぱりクロコダイルには手を出さない方がいいですぜ」
「ああ、奴はヤバイ。人を殺すことなんて何とも思っちゃいねぇんです」
「あのアーロンなんか奴に比べたら蟻みてぇなもんで・・・」
ジョニーとヨサクは、堰を切ったかのように話し出した。

クロコダイルというのは、マフィアの世界でもかなりの大物で、警察の上層部とも繋がりがある。
彼に逆らうこと、それは死を意味するのだと。

「お前らには関係ねぇだろ?おら、用が済んだらとっとと帰れ」

話を聞き終えて、なお意気盛んにクロコダイルについて語ろうとする二人を追い払うかのように言った。

「そんなぁゾロの兄貴〜」
「呼び出しておいてそれはねぇでやんす〜」
「重要なとこはもう終わったんだろうが」
「・・・つれないっすね・・・」
ジョニーがそのサングラスの奥の瞳を涙で濡らすと、ヨサクが「いや、ジョニー。兄貴の邪魔しちゃなんねぇ」と、ゾロに目で合図しながらたしなめた。
ジョニーは涙を止めて、ゾロとヨサクを交互に見た後、「あっ!」と突然頬を染めた。

「・・・・・?
 何だァ?お前ら・・・」

突然もじもじし始めた二人に、ゾロが怪訝な顔をした。

「いえ、その・・・お怒りはごもっともです!」
「あっしら決してお二人の邪魔をしようとしたわけでは・・・」
「おいっ!何変なこと考えてんだっ!!」

ゾロがいくら声を張り上げても、二人はにやにやと笑いながら別れを告げて、帰って行った。


++++++++++++++


一人、部屋に戻ってベッドに突っ伏したまま、ナミはじっと考え込んでいた。
ノックの音がする。
あの力強いけど、優しい音はゾロ。
気遣う時は大抵そう。

キィとドアを開けて、その男が入ってきた。
私の隣に座る。

「何をそう気にしてんだ。テメェは・・・?」
顔を見なくてもわかる。きっとゾロは今、呆れたように眉をあげて私を見下ろしているんだろう。
私の気持ちがわからないのも無理はない。
何故なら、みんなに話していないことが一つだけあるのだから───
そしてそれは、皆には関わりない私のこと。

3週間前のことだ。
廊下を歩いていると、後ろからロビンに声を掛けられた。
「ナミさんのお姉さまは何をなさっている方だったかしら?」
「・・・?」
突然の質問に、ナミは一瞬躊躇いを見せてから「ココヤシ市でOLしてますけど?」と答えた。
「たしか、ノジコさん・・・だったわね」
「・・・姉が何か?」
何故、ロビンがノジコのことを持ち出したのか?さっぱりわからない。ナミは訝しげに眉をひそめた。
「『あの人』の口からその名前を聞いたのよ。
 私も詳しくはわからないけど・・・お姉さまは本当のただの・・・?」

『あの人』というのは、ロビンの愛人。ロビンがその男を呼ぶ時、必ずこの言葉を使うのだ。
ナミは途端に血相を変えて、逆に何故その男がノジコのナを出したのかをロビンに問い詰めると、ロビンは少し顎に指を軽く掛けて考えてから「私もわからないわ。以前、ナミさんのお話に出てきた人と名前が同じだと思っただけで、深くは聞いていなかったのよ。ほら、珍しい名前でしょう?だから覚えていたの」と言った。

ノジコに何があったのか?

何故、そんな大物のマフィアの口からノジコの名前が?

不安で頭がいっぱいの態で黙りこくってしまったナミを見て、ロビンが「調べておくわ」とだけ言った。
それ以来、その話はしていない。
だがロビンが姿を消す前の、彼女らしからぬ気弱な声色。
姿を消したことで、もしやノジコに関わることの所為なのかもしれないとナミは思っていた。
そこへきて、ジョニーの言った「その女が最近ヘマやらかして・・・」という言葉は、ナミの中で決定打となった。

ノジコのことを調べていて、何かヘマをしたのか。
それとも、ノジコを庇う形になってクロコダイルの怒りを買ってしまったのか。
それはわからない。わからないのだが、胸の中に嫌な予感がどんどん膨らんでいくのだ。



「ナミ、何か隠してんじゃねぇだろうな?」
ゾロは黙ったまま何も言わなくなってしまったナミの頭をくしゃっと一撫でして尋ねた。

「・・・何を隠してるって言うのよ」

そう答えられてしまうと、出る言葉もない。
勘なのだ。
この女が、こうやってベッドで悶々としている時は、必ず自分に何か隠し事をしている。

「何もねぇならいいが・・・
 あんな事言われたぐれぇで何怒ってんだ?」
「あんな事って何よ。ロビン先生が死んでるかもしれないって言ったのよ?」
ようやく枕から顔を上げたナミの瞳には尋常ではない怒りの色が顕れている。

(しかも、もしかしたら私のためを思って・・・───)
そう言おうとして、ナミは言葉に詰まった。
そうであるかもしれないし、そうでないかもしれない。
そもそも一般人のノジコとマフィアと一体何の繋がりがあるのか?
確認しようとして、当のノジコに電話しても、いつもと変わりない元気な声が返ってくるだけなのだ。

ここまで不確定要素が多いのだから、まだ皆に言うわけにもいかないと思っている矢先にロビンがいなくなった。

ナミが神経を尖らせるのも仕方のないことなのだ。


ゾロはそんなナミをじっと見ていたが、不意に彼女の隣に寝転んだ。


「・・・ちょっと。何寝てんのよ?」
「眠い」
「眠いじゃないでしょ?私にかける言葉はないわけ?」
「言いたくねぇんだろ」

その言葉を最後に、ゾロは大口を開けたまま本当に眠ってしまった。

そんな恋人の姿に少し苛立ちながら、けれども気が緩んだナミも、いつしか瞳を閉じていた。

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