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4 ナミの姉、ノジコ



11月11日。
ゾロの誕生日に、ようやくナミは自分の思いを伝えた。
それは会ってからずっと悩んでいた自分の気持ち。
彼の腕の中で安心感を覚えているのが何故なのか、自分で自分の気持ちに整理がつかず、彼女はずっと迷っていた。
けれどもそれが恋なのだと知った時、彼女はゾロにその思いを打ち明けた。
ゾロも、彼女の告白を聞いてすぐ彼女を抱き締めてくれた。

二人の思いが通じ合ったのも束の間、また彼らは新しい賭けをした。
それは、キスのみの関係で、先にナミが彼を許すか。
それとも彼が諦めるのが先なのか。
ナミはゾロが諦めることに賭け、ゾロはキスだけでナミを落としてやると豪語した。

だが、ナミの鉄壁の前でゾロは常に劣勢なのだ。
何と言っても、口の立つナミに口論を仕掛けても勝てないということが、ゾロの度重なる敗戦の理由だ。
いくら誘っても乗ってこないナミを見ていると、自分の口付けはそんなにも駄目からと自信をなくさなくもない。けれども、もう一歩だとも思う。
ナミが自分を好きだということは揺ぎ無い事実であって、それがひっくり返らない限りは、ゾロの飽くなき挑戦は続くのだ。

一方、ナミももう一押しでゾロに溺れてしまう自分を懸命に押し殺していた。
どこで一体身に付けたのかと思うほど官能的な彼のキスは、恋愛経験の少ないナミにとってはあまりにも甘く、自分にとっては媚薬でしかないのだとしか感じざるを得ない。
だが、一度賭けた以上、引き下がるのは性分に合わない。
ナミの心の中では、この賭けでゾロに「好き」と言わせることが目標だった。
素直に言うとも思えないその男に、自分を好きと言わせる。
その一言さえ言ってくれたら、いくらでも自分をあげてもいいと思う気持ちもある。
それを知らないゾロはただ、激しい口付けを浴びせるばかりで、ナミは余計に意固地になってしまう。
次こそは言わせてみせようと思ってしまうと、ついつい良い雰囲気になっても屁理屈をこねて、まずキスまで持っていかせまいとしてしまうのだ。

かくして、こんな攻防を経た彼らは、結局一緒に暮らしているにも関わらず、キスも数える程度しかしていなかった。

それでも抱き合って眠ることに変わりはないものの、ナミの胸にはもしかしたらゾロがただ女を抱きたいというだけで、身近なナミの思いを受け入れただけかもしれないという疑念が生まれていた。





ふと目を覚ますと、顎の下にオレンジ色の髪が見える。
自分が寝たらこの女はいつもこうやって寄り添って、いつしか一緒に寝ているのだ。

(猫だな、猫・・・)
そう呟いて、ゾロはいつものように彼女を抱き寄せた。

彼女が微かに吐息を漏らす。
それを聞くと、唇を重ねてやりたいと思うのだが、あまりにも幸せそうに眠るその顔を見ると気が削がれてしまう。
こういう気分になってしまうと、賭けは自分の負けかもしれない、という思いが頭によぎる。

幸せとはこういうことなのだろう。
ただ、抱き合って眠るだけのことに、平穏な空気で包まれているかのような錯覚を起こす。
一年前を思い出してみれば、彼は一人で下宿の小さな部屋で暮らしていた。
こたつすら持っていなかったために、真冬などは寝る時すらコートを着たままだった。
それに比べて、このナミの家はまさに天国なのだ。
そもそも、家の壁自体が防寒できる物なのだろう。
あの安下宿の壁などは、一体外と何を隔てるために作られた物かさっぱりわからないほど、外気を直接部屋に侵入させていたし、隣の部屋のテレビの音なんかも丸聞こえだった。
この家は違う。
ナミの部屋から出てすぐのダイニングの声なら少し届くことはあるものの、ドアを締め切っていれば、居間で騒ぐルフィやチョッパーやウソップの声も遠くに感じるぐらいなのだ。

一年前の自分が想像もしない今の環境をゾロはナミに感謝せざるを得ない。
そのこともあって、ついついナミに頭が上がらなくなってしまう自分がいるのだとしても。


そんなことを考えている時、玄関のチャイムが鳴らされた。


オートロックマンションだ。
インターフォンで呼び出さずに、いきなり玄関まで来るということは、見知ったる管理人のメリーか同じ階の女子高生カヤだと思って、ゾロはナミを起こさないようにそっとベッドから降りて扉を開けた。




「「誰?」」

お互いの声が揃ってしまった。


そこに立っていたのは、メリーでもカヤでも、ましてや麦わらクラブのメンバーではなく、一人の若い女だったのだ。
薄い水色の髪を大きく左右に分け、大きな広い額の下にある瞳は、強い光を放っている。
一目見ただけで彼女の気性の激しさを容易に想像することができた。

そんな女をセールスか何かだろうかと思ったのか、ゾロは思いっきり怪訝な顔を見せた。

「・・・テメェ、誰だ?」

声もいつもより低く、まるで脅すような響きを持っている。

「あんたこそ、一体誰?」
その女は眉を顰めて、ゾロを上から下までじっくり見てから、突然はっとしたように「もしかして・・・」と呟いた。

「もしかして・・・あんたがナミの彼氏ね?」
ナミのことを知っている。
ということは、ナミの友達だろうか?
家まで来るような友達はいないとナミは明言していたはずなのだが。
敢えてその質問に答えず、ゾロもその女に問い掛けた。
「あんたこそ、誰だ?」

一転、女は嬉しそうに笑って無愛想なゾロに向かって手を差し出した。

「あたしはナミの姉のノジコ。よろしく!」

ノジコの明るい声が廊下に響いた。


++++++++++++++


「ウソップ。もうちょっと右だよ。右。」
そうやって、脚立に昇ったルフィに指示を与えていたのはチョッパーだ。
「こうか・・・っておい、ルフィ!
 そこで走り回ったら俺が落ちるだろーがっ!!」

3人はクリスマス会の準備に慌しい教会にいた。
そこには準備を手伝いに来た数人の子供達もいて、結局ウソップとチョッパーが作業をする間、ルフィがその子供達の相手という名目で遊んでいたのだ。

「おお、もうそこで終わりですね。
 手伝っていただいてどうもすみません」
そう言いながら、礼拝堂の脇の小部屋から顔を出したのは牧師のパガヤだ。
腰の低いこの牧師が手に持っていたのはお菓子と紅茶の入ったカップが乗せられたトレイだった。
「さすがウソップだなぁ。お前ん家もクリスマスの飾り付けはすごいもんな」
ルフィがようやく気付いたように、礼拝堂の中を見渡して瞳を輝かせた。
それは決して豪勢という飾りではないし、ところどころ折り紙を使った装飾が施されているだけだと言うのに、手先の器用なウソップが一つ一つのアイテムに手を加えたことで、ショッピングモールのクリスマスデコレーションに比べても遜色がないような部屋になっていた。

「まぁ俺様にかかればこれぐらいはお手のもんよ」

そう言って、ウソップは脚立から降りて、鼻の下に指を一本当てて胸を反らした。

「皆さん、本当にありがとうございます。
 こんな物しかなくてすみません。
 どうぞお召し上がりください」
出されたクッキーに飛びついたのは、ルフィと彼と遊んでいた子供たちだった。
「テメェは何も仕事してねぇじゃねぇかっ!」
ウソップが後ろからルフィを殴り飛ばして紅茶とジンジャークッキーにありついた。
チョッパーもその後に続くようにおずおずと手を伸ばす。

「パガヤさん、パーティーはいつなんですか?」
ポリポリとそのクッキーを頬張ってチョッパーが聞くと、パガヤが嬉しそうに「24日ですよ」と言った。
「24日かぁ・・・その日は・・・」
「ナミの家でクリスマスパーティーだなっ!」
ルフィが大声を出して、チョッパーの声がかき消されてしまった。

「おお、そう言えばルフィ。
 冬休みはどうすんだ?
 ナミの家に集まるのか?」

夏にはナミの依頼のため、彼女の護衛も兼ねてその家に1ヶ月近く合宿という名目で泊まっていたが、冬休みまでそうするわけにもいかない。何と言っても、今はナミとゾロが付き合っているのだ。
恋人達の時間を邪魔しようものなら、あの二人からどんなに恐ろしい仕打ちが待っているものかとウソップは想像しただけで身を震わせた。

「ウソップ、わかってねぇなあ。
 冬休みはクリスマスもあるし、大晦日もあるし、正月もあるんだぞ?」
「ああ、そうだな。さすがに正月は家で・・・」
「合宿に決まってるじゃねぇか!」

ウソップが額をテーブルにぶつけた。
ゴンッと鈍い音が響く。

「お、お、お前なぁ・・・もうちょっと奴らに気を遣うつもりはねぇのか?!」

そもそも毎週末、ナミの家に泊まること自体、ウソップは憚られてしまうのだ。
だがナミとゾロがそれについて何も言わない以上、突然行かなくなるのもおかしいだろうとも思う。
何より、リーダーのルフィがナミの家を秘密基地と称して集合場所にしているのだからしょうがない。
けれども不器用なあの二人は、何も進展がないと口を揃えて言うし、そろそろ邪魔をしてはいけないのではないかと思うこともあるのだ。
冬休みと言えば、自分やルフィと同じく、ナミも長い休みに入るということ。
さすがにその機会を自分達の手でつぶすというのは気が引けてしまう。

「でも、カヤも休み中はあそこにいるんだろ?」
「そうは言ってたけどよ・・・」

カヤというのは、GMパレスの管理人の高校生だ。ウソップは彼女のオルゴールを直して以来、何故か文通を続けている。カヤが携帯電話を持っていないのだから仕方ないのだと言いながら、嬉しそうに手紙を書く姿を見て、メンバーは心中苦笑せざるを得なかった。どうせ、週末にはカヤはナミと同じ階にある自宅に戻ってくるのだから、会いに行けばいいのにといくら勧めても、ウソップは「俺は忙しいから」と行って、自分から訪れることはない。チョッパーやルフィが会いに行こうと言えば、しょうがねぇなと言いながらついて行くだけだった。
そのカヤが冬休みに入ればすぐに家に帰るという手紙を送ってきたのは、つい2日前のこと。
ウソップはその手紙を嬉しそうに仲間に見せてまわった。

「ウソップ、カヤと付き合えるといいなぁ」
ルフィが突然そんなことを言うので、ウソップは真っ赤な顔になって紅茶を噴出してしまった。
何をいきなり言い出すんだと慌てる少年を、ルフィの隣にいた数人の子供たちもルフィの後に続いてからかう。

楽しげな仲間達の様子を端で見ていたチョッパーは、一つ小さく溜息を漏らしていた。

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