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6 深まる溝




「ちょっと。ゾロだっけ。あんた付き合ってよ」
買い忘れた物があるから、とノジコが和室で寝ていたゾロを起こして言った。
「ノジコ、私が一緒に行くわよ」
横からナミがそう声をかけたが、ノジコは笑って「酒を買いに行くんだから、重い物持てる奴の方がいいの!」と答えて、ゾロの腕に自分の腕を回して無理やり連れて行こうとする。
(う、腕なんて回して・・・!)
ゾロが自分の彼氏だと言っていない自分も悪いのだが、昨日会ったばかりの男にそんなに慣れなれしくする姉の姿にナミは思いっきりしかめ面になってしまった。

「そんな奴、役に立たないわよ。すぐに迷子になるし・・・」
ゾロはその言葉に一瞬眉を顰めたが、何も言わずにノジコの腕を振り払って、玄関まですたすたと歩いて行った。
「ははっ!無愛想だけどいいってことかな。
 じゃあナミ、行ってくるから。御飯よろしくね」
ノジコが鞄を手に取ってナミに手を振った。

つられてナミも手を振ってしまったが、その顔は極めて固い。

(あーーーそう!まだ怒ってらっしゃるってわけね?)

さっきのゾロの態度。
いつもなら「誰が迷子だ」なんて食ってかかるくせに。
無視することで、私に対してまだ怒ってると言いたいというわけだ。

(何よ、男のくせにしつこいんだから・・・)

一晩寝ればゾロが元通りになると思っていたナミとしては、今朝から面白くない気分だった。
朝食でも彼はナミに目を向けることすらなく、黙々と食事をする。
昨晩用意しておいた着替えに手をつけずに、ナミがご飯を用意しているい間に勝手に部屋へ行って着替えを取り出した。
弁当を渡してやろうとしたのに、呆気なく扉を閉めてバイトへ行ってしまった。
帰ってきてからも、全くナミを見ようとせず、ソファに寝転がってテレビを観ているだけだ。

ナミがしつこく話し掛けると、さもうるさそうに和室に入って襖を閉めた。

面白くない。全くもって面白くない。
ノジコとも話をしない。
ノジコはノジコで、そんなゾロの態度に「お邪魔虫が来て怒っちゃったんじゃない?」なんて言うし、ナミとしては何故普通に振舞ってくれないのかと思うのだ。

ようやく完成間近になった料理の火を消して、後は彼らが帰ってから仕上げようと思い、キッチンから出た。
広々とした居間を見て、いつもゾロがいるソファに腰を下ろす。
付けっ放しのテレビからは明日の天気予報を呑気な顔の若い気象予報士が声を大にして伝えている画面が映し出されている。
『今週いっぱい、晴天が続くという予報です。
 来週からは大雪の可能性がありますが
 ホワイトクリスマスは期待できないかもしれませんね』

クリスマスなど、あまり興味ない。
去年なんかは買い物に出てはそこら中に星が散りばめられていて、街頭のイルミネーションは一人で歩くナミにとっては何を浮かれているんだか・・・と、むしろ感情をますます冷めさせるだけのものだった。
けれども今年はゾロもいるし、仲間もいる。
多少楽しいクリスマスを予想していたにも関わらず、ロビンの失踪。ノジコの突然の訪問。その上ゾロがあんな態度では、去年よりも嫌な日になりそうだ。
そう思ってナミは一人、ため息が漏れそうになった自分に気付いて、慌ててを首を振った。
ふーんだ、と冗談っぽく拗ねてみせる。

その後で、やはり、ため息が出てしまった。


++++++++++++++


「ナミと喧嘩した?」
店でお酒を物色しながら、無言で彼女の後ろに突っ立っているゾロにノジコが背を向けたまま声を掛けた。

「・・・別に」
ぶっきらぼうに言って、ゾロは口を尖らせた。
「あはは。私を邪魔だと思ってるって顔だね!
 まぁそう邪険にしないでよ。
 ナミとの話が済んだら、すぐに帰るつもりなんだから。」
「昨日、大学に行けっつってたアレか?」
和室と居間の間は襖とその上に欄干があるだけで、声をひそめない限りはその会話は筒抜けになる。
苛立って眠れなかったゾロの耳に、おおよその話は入ってきていた。

「まぁそれもあるけどね。
 大学のことは・・・最後はナミに決めさせてやるつもり。
 保護者としては一応口うるさく言っておかないとね。
 あの子、変なところで意固地だし、私の財布なんかに気を回しちゃって」
「あいつは行きたくねぇんだろ?」
「・・・少なくとも、ベルメールさんが亡くなる前は行きたがってたよ。
 ベルメールさんに金がないからどうしようかなって意地悪言われて
 落ち込んだり、反抗したり。
 あんた、ナミの彼氏だろ?あんたから言ってやってよ」
「俺から言ってどうなるってもんでもねぇな。
 そもそも、俺ぁ彼氏じゃねぇ」

つっけんどんに言い放って、酒瓶をノジコの手から奪うとゾロはさっさとレジまで歩いていった。

「そう隠すこともないじゃない」
小走りになって追いついたノジコがそう言うと、ゾロは眉を一つ上げてにっと笑った。
「そういうことになってんだ。今は」

一瞬呆れた顔になってから、ゾロに「俺ぁ金なんか持ってねぇぞ」と言われてようやく我に返ってノジコは途端に満面の笑顔になった。



「あんた、飲まないんじゃなかったのか。」
店を出てゾロが手に提げた袋を見ながら、昨晩のノジコを思い出しながら言った。
昨日ノジコはメンバーに酒を勧められると、まだたっぷりと酒が入ったグラスを持って「まだ入ってるから」と言っては断っていた。ゾロだけがノジコが杯を進めないために一口ずつしか飲んでいないことに気付いていたのだ。

「ん?バレちゃってた?」
「他の奴らは気付いてねぇだろうがな」
ナミの姉なのだ。きっと酒豪に違いないと思っていたのに、全く飲まない。けれども「飲めない」と言うわけでもないノジコが不思議だったのだ。
「実はね、さっきのナミに言わなきゃいけないことってのは・・・」

そこまで言って、ノジコが急に口に手を当てて俯いてしまった。

「・・・おい?」
隣の女の様子にゾロが驚いて肩に手を置こうとすると、ノジコはいいから、と言って、早足で歩き始めた。

「アレのせいよ」
酒屋の店先を離れてから振り返ってノジコがその店の前にあった肉屋を指差した。
何の変哲もない肉の専門店だ。
ゾロが訝しんでノジコを見ると、彼女は大きな口を開けて笑った。
「わかんないって顔ね。ほら、あそこでコロッケ揚げてるでしょ?
 店出た途端その匂いにやられちゃったってわけ。」

はぁ、と未だ理解できないようにゾロが顎に手を当てて首を捻った。

「鈍い男だね、あんた。
 悪阻って言葉、知らないの?」
呆れたようにノジコがその言葉を言う。

「・・・・・つわりぃ??
 じゃ、テメェ妊娠して・・・!?」

商店街の人ごみの中、大きな声を出して驚くゾロに、通行人は一斉に目を向けた。
はっとなって周りを見れば、人々は皆、彼らに注目してその展開を待っているようだ。
どうもその父親が自分だと思われているらしいことぐらい、ゾロにもわかる。
自分ではない、と言わんばかりに興味深く彼らを見、耳を欹てている人々に睨みを利かせ、その場にいた彼らは鋭い眼光を受けてそそくさと去っていった。

「あはは。勘違いされちゃったね。
 ま、年齢的にもあんたと私じゃあねぇ」
「・・・俺がそんな男に見えるか?」
「さぁ。ナミが不幸にならなきゃあたしは別にいいよ。
 特にナミみたいな子には、血の繋がった家族は必要なんだ。
 ・・・あたしにもだけど」

以前、ナミが自分とノジコは血が繋がっていないと言っていた。
そしてベルメールとも。
彼女らは、血の繋がりのない家族。
それ故に彼女らは強い絆を持っていた筈。

不思議そうにノジコを見るゾロの視線に気付いて、ノジコが困ったように笑った。

「ああ、ナミも今はわかんないだろうけどね。
 あたしだって子供ができて初めてわかったんだ」
「・・・そりゃ・・・まぁ・・・おめでとさん」

ノジコが噴出した。

他に言う言葉が思いつかなかったのだろう。
それでも彼なりの祝辞に心が絆されていく。

「とにかく、年明けには入籍しようと思ってるんだ。
 そうすると・・・戸籍上もナミは一人になっちゃうだろ?
 あの子の気持ち考えたら、なかなか言い出せなくてさ」
ノジコが明るく言うと、ゾロが親指をあげて、背後を指した。
「じゃあ、あんたの男が尾けてきてんのか?」

突然のゾロの言葉にノジコが驚いて目を見開いた。
「尾けてきてる・・・って誰が?」
「家の前からずっと来てるじゃねぇか」
ノジコは眉間に皺を寄せて、心底わからないという顔をした。

それはゾロだけが気付いていた。
マンションから出た時から、自分達をじっと見ている影がある。
それでも殺気があるわけでもない。
ただ見ているだけで、手を出そうという気はないらしい。
けれども素人の尾行ではない。
違和感なく人ごみに紛れていて、ゾロにもその人物を特定することができなかった。
思い当たると言えば、ロビンのことで調べたクロコダイルのことだ。
ジョニーとヨサクから足がついたのではないかとも思う。
ノジコの表情から察するに、彼女には関係ないのだろう。
そういう結論に至って、ゾロは「俺の気のせいだ」と前言撤回した。

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