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32 新しいメンバー

 
「ナミ、世話になったね」

結局ノジコはメンバーに請われるままに、その後3日間、ナミの家に滞在していた。
その間、年末にまた出社することになっていた会社に辞職願いを郵送した。
直属の上司からは突然のことにどうしてと聞かれたが、会社の上層部は今回のことを知っているのだろう。
それ以来何の音沙汰もなく、これまで溜まっていた有給も昇華し、なおかつ退職金も僅かながら出すという連絡があった。
会社もクロコダイルというバックボーンがなくなったのだ。
これから衰退の道を辿るだろう。
そんな会社にいつまでもいれないから、とノジコはあっさりと決断を下した。
「どうせ辞めたんだから、お正月までいればいいのに・・・」
駅まで彼女を見送りに来た麦わらメンバー達から一歩前に出て、ナミが名残惜しそうに呟いた。
「そうしてもいいんだけど・・・ゲンさんがさ」
困ったように笑って、ノジコが携帯電話を見せた。
ここ数日、いつまで経ってもココヤシ市に戻ってこないノジコを心配して、ゲンゾウは幾度となく電話をしてきた。ノジコの身体も案じているのだろう。
その気持ちは十分わかる。
ナミも仕方ない、とばかりに溜息交じりに頷いた。
「それより、ゲンさんにはまだ秘密にしといてよ?」
「わかってるって」
「秘密って何だ?」
チョッパーが瞳をくるくるさせて不思議そうに尋ねる。
「ゾロのことよ。ゲンさんってね。頑固親父そのものだし・・・」
「あたし達の父親代わりをしてきたからさ。
  ナミが男と暮らしてるなんて聞いたら、すっ飛んで来て
  有無を言わさずにゾロを殴り飛ばすだろうね」
あはは、とノジコが軽く笑う。
「もう、ノジコ。笑い事じゃないわよ・・・本当に頼むわよ?」
「大丈夫だって。あんたの姉を信用しな!」
バンッと小気味良い音を立てて、ノジコはナミの背中を叩いた。
「じゃあそろそろ行くね・・・」
そう言って、ノジコがサンジが持っていた鞄を手にした時、ナミが意を決したように顔を上げた。
「ノジコ・・・私、決めたわ」
「・・・ん?」
「大学に行く」
凛とした声がノジコの耳に届く。
自分を安心させようとして言っているわけではないことがその声でわかる。
「・・・うん」
「できれば、グランドライン大を受けたい。
  私大だから、受かっちゃったらお金かかるけど・・・」
バカね、と呟いてノジコがナミの頬を軽く抓る。
「ベルメールさんの遺産の残りと、あたしの貯金もあるから学費は心配すんな!
  でも、大学に入ったら生活費は自分で稼ぐようにね!」
「・・・うん。ありがとう、ノジコ」
ナミが抓られた頬をそっと摩りながらはにかんだように笑った。
「ね、結婚式はどうするの?」
「あぁ・・・急なことだからまだはっきり決まってないけど・・・
  あたしは写真だけでいいって言ってんだけどね。
  ゲンさんが必死で教会探してるとこ。
  身内だけ呼んで、人前式ってのもいいかもね」
「人前式?素敵!参加した人が立会人になるアレでしょ?」
「お金もそうかからないしね。もしするとしたら、2月の終わりぐらいかな。
  1月はもう予約がいっぱいでさ。その頃ならおなかも安定期に入るし・・・」
「俺たちも呼んでくれんのかっ!?」
ルフィが嬉しそうに自分を指差す。
当然、とノジコが笑って頷いた。

「じゃあ、あんた達!ナミをよろしくね!!」
ドアが閉まりきる瞬間、大きくそう叫んでノジコが彼らに笑顔を向けた。
ルフィが親指を立てて、「おぅ!」と言うと、ウソップとチョッパーもそれを真似するかのように頼もしそうな笑顔を見せた。
サンジとロビンは離れたところから笑顔で小さく頷く。
最後にノジコが視線をやった男は、ナミの後ろでにっと口の端をあげた。
それを見てノジコは目を細めた。
と、同時に電車は動き出す。
ルフィ達は嬉しそうに手を振って、その電車を、ホームが切れるそこまで追いかけていく。
あっという間に遠ざかっていくその影に向かって腕を振りながら、少年は真冬の曇り空の下、大声で叫んだ。
「依頼達成だー!!」

++++++++++++++

「また、突然ね・・・」
年末年始と騒ぎつづけた仲間達が、1月2日、突然帰り支度を始めた。
夏休みの合宿もこうやってルフィがいきなり「帰る」と言い出して、ろくな挨拶もせずに朝早く帰っていったのだ。
それに比べれば、今日はまだ昼ご飯を済ませて帰り支度を始めたのだから、まだマシだ。
ただ、デパートの初売りセールのために警備員のバイトをしているゾロはやはり家にいなかった。
「ルフィ、あんたゾロがいない日を狙って、帰ろうとしてるわけ?」
「んん・・・!ゾロが俺たちの帰る日に仕事に行くんだ!」
そうだろう?とでも言いたげに、ルフィが胸を張った。
「ま、いいわ。アイツも気にする奴じゃないしね・・・」
何を言っても無駄なのはわかっている。ナミは肩を竦めながらリビングソファに腰を下ろし、いそいそと帰り支度をしている彼らの姿を目で追っていた。
「ロビン先生は、本当にサンジくんの家に行くの?」
「ええ。仕事もあるって言うし・・・」
少ない荷物をまとめたロビンがサンジの用意したコーヒーを手に、ナミの右隣にあるソファに腰を落ち着ける。
「じゃあ、またサンジくんと一緒にここに来てくれる?」
「さぁどうかしら・・・?私が来る理由もないし・・・」
「ロビン、来なきゃ駄目だぞ!」
和室でがむしゃらに服を丸めて鞄につっこんでいたルフィが突然振り返って言った。
「ここは麦わらクラブの秘密基地なんだからなっ!」
「ちょっとルフィ、それとロビン先生とどういう関係が・・・」
「ロビンはもう仲間じゃねぇかっ!!」
ナミとロビンの瞳が同時に大きく見開かれた。
「・・・仲間?」
一体、いつそんな話になったのかとナミがロビンを振り返ってみれば、彼女も初めて聞いたようで驚きの表情を隠していない。
「リーダーがそう決めちまったからなぁ」
サンジがキッチンでぼやくように言った。
「ああ、ロビン。ルフィはしつこいぞ」
ウソップも荷物を抱えて走り回りながら言う。
「ロビン、俺たち仲間だなっ!」
チョッパーが嬉しそうに笑って、ロビンに駆け寄った。
「・・・あんた達ねぇ・・・ロビン先生にも都合ってもんが・・・」
「いいんだ!もう仲間なんだ!な、ロビン!!」
力強くそう言って、ルフィがにっと笑った。
ようやくロビンの目が細められる。
何故こうも年の離れた少年達に自分は癒されてしまうのだろう。
けれども、何故か数年間忘れていたその幸せをロビンは心の奥底で感じ取っていた。
「・・・よろしくね」
ロビンが静かに言って、それでも嬉しそうに微笑む。
皆が目を合わせて、にっと笑った。

++++++++++++++

「で、あの女が仲間になったってわけか」
仕事から帰ったゾロと夕食を食べながら、ナミが事の顛末を話すと、彼は呆れたように言った。
「アイツは他人の都合ってもんを考える能力が欠如してんのよね」
(ま、あんたもだけど・・・)と、もぐもぐ口を動かす目の前の男を見ながらナミは内心苦笑した。
本人は気付いているのだろうか。
ルフィとゾロは正反対のようで、どこか深い部分で繋がっているということを。
ただその手段が違うけれども、彼らの信念はまるで一人の人間のように、同じものを感じる。
「じゃあ、また布団買うのか?」
「ま、しばらくはルフィはこたつから離れないでしょうし・・・いらないんじゃない?」
言った後、ナミは立ち上がって空いた皿を片付け始めた。
キッチンにそれを持っていって、ついでにゾロのために酒を取り出す。
正月に奮発した祝い酒がまだ残っているのだ。
「ゾロ、お雑煮が余ってるの。食べる?」
「食う」酒の肴とも思えないが、サンジが作った物はどんなものでも美味い。
ゾロは躊躇いなく頷いて、皿に残った最後の肉をポンッと口に放り込んだ。
「ねぇゾロ、明日もバイト?」
「いや、明日ぐらいからは人手足りてるらしいからまた休む。
  大学の試験期間になれば、どっちにしたって入れって言われるしな」
警備員のバイトには大学生が多い。
この辺りの大学はおよそ1月中旬に後期試験を実地する学校が多いため、学生達は正月にシフトを入れたがるのだ。
当然、ある程度ナミに払えるだけ稼げばいいと思っているだけのゾロは、シフトから外されることが多くなった。
「そう。困ったな・・・」
ナミの言葉にゾロが顔をしかめた。
「何だ?俺がいちゃ困るってのか?」
「う〜ん・・・今夜から、本格的に勉強しようと思ってたのよね」
年末、ナミはようやく大学に行く決心を固めた。
今の成績ならば中の上程度の大学なら特別に勉強しなくても良いだろう。
だが行くからには良い大学を受けたい。
冬休みに入った担任教諭に連絡をして、ナミはグランドライン大学を受けると言うと、さすがに教師は渋い声色で「おそらく合格圏内・・・だdとは思う」と言葉を濁らせた。
受験まであと1ヶ月しかないのだ。他の受験生達はとっくにラストスパートに入っている。いかに今まで好成績を収めてきたナミとは言え、このハンディを乗り越えられるかどうか、それを教師は懸念したのだろう。
受験まで寸暇を惜しんで勉強しても、受かるかどうかわからない。だからこそ難関と呼ばれる大学。それがグランドライン大学だ。
「すりゃいいじゃねぇか」
グラスを持ったゾロに気付いて、ナミがさりげなく酒瓶を手にして酒を注いだ。
「邪魔しない?」
「するかよ」
酒をぐっと飲み干して、ゾロが答える。
(そりゃあんたはしないだろうけど・・・)
ナミは、「ゾロがいる」というそれだけに自分の心がいつもの冷静さをなくすことを知っている。
その男が家にいて、勉強に集中できるだろうか。
それが彼女の不安だった。
「じゃあ約束してよ。絶対に邪魔しないって・・・」
「だから、俺がそんなことするような男に見えるか?」
「だって・・・じゃ、キスとかもしないでね?」
「・・・・・・はァ?」
ゾロがいかにも不服そうに眉をひそめた。
ナミは赤い顔してダイニングテーブルに視線を落とす。
「だって・・・そういうことに気を取られたら、勉強したことが頭に入らないでしょ?
  だから私が大学に受かるまで、和室で寝てくれない?」
「・・・落ちたら?」
「受験生に向かって、不吉なこと言わないでよ」
呆れたようにナミが溜息ついた。
「グランドラインが落ちたら、国立の二次を受けるわ。
  それは、ランクを落とした大学に目星つけてるから
  多分受かると思うの。でも、グランドラインは難しいでしょ?
  ま、あんたみたいに楽に入った人には分からないでしょうけど・・・」
「楽って・・・俺ァ剣道で鍛えてたから・・・」
「そうそう、そうよね。必死に鍛えた結果、入れたんでしょ?
  だから私も頑張らなきゃいけないのよ。
  入試だってお金かかるんだから・・・絶対落ちたくないの」
いつになく真剣に語るナミを見て、ゾロは口を真一文字に結んだまま、返す言葉を失ってしまった。
「だから、ね?合格発表の日までは、何もしないって約束してくれる?」
「合格発表っていつだよ?」
「えっと・・・」ナミが立ち上がって、年末に書店で入手したグランドライン大の入試要項が記載されたパンフレットを部屋から持ってきた。
「私が受ける学部は2月5日が受験日で・・・発表は2月13日の土曜日ね」
「1ヶ月以上あるじゃねぇか」
「1ヶ月だけよ」
冗談じゃない。
ようやくナミと二人きりになれて、今夜にも彼女を落とそうと一瞬思ってしまったゾロは、舌打ちをしてその不機嫌さを顕にして酒を呷った。
「ちょっと、何怒ってんのよ」
「これ以上待てるか」
「たった1ヶ月よ?別にそんなに怒ることじゃないでしょ?」
「じゃあ楽に入れるとこ受ければいいだろう?」
ゾロは一歩も退かない。
むっとナミが口を尖らせた。
(何よ・・・あんたと一緒の大学に行きたいから、頑張ろうと思ってるのに・・・───!)
春からはゾロもグランドライン大学に復学すると言う。
だからこそ、ナミは教師に渋い顔をされようと、1ヶ月勉強漬けの日々が待っていようと、頑張ろうと心に決めたのだ。
「バカ・・・」
「あァ?何だ、てめェ・・・いきなり人をバカとは・・・」
「バカでしょ!?何で私がわざわざこんな苦労してまでこの大学に行きたがってるか、わかんないって言うの?」
「わかるわけねぇだろ?そんな金もかかって、妙な奴らが集まってる大学なんか・・・」
ゾロはグランドライン大学附属高校に通っていたのだ。
高校生活を思い出してみれば、その大学もくだらない校風であると決め付けてそう言った。
「違うとこに行きゃいいじゃねぇか」
こともなげにそう言い放つ。
「・・・違うとこだったら、あんたがいないじゃない」
聞こえるか聞こえないかの声で、ナミが呟いて、ようやくゾロはその不遜な態度を引っ込めた。
自分の目の前でその睫を物憂げを伏せて口を尖らせる少女が何故、この大学に固執するかというその理由。
(俺か・・・───)
申し訳なさそうに頭をボリボリ掻く。
「・・・その、悪かった・・・」
所在なさげに素直に謝ってみると、突然ナミは顔を上げて笑みを漏らした。
「じゃ、約束ねっ!?」
まるで子供のように無邪気な笑顔を向けられると、ゾロも渋々と了承するしかない。
「・・・13日までだろ?」
「ん〜そうね、14日がちょうどバレンタインだから・・・
  もし我慢できたら、その日にご褒美あげるわっ!」
一変して、嬉々としてナミが計画を立てていく。
「ご褒美って・・・俺が欲しいもんは一つだけだぜ?」
意地悪く眉を一つ上げて、ゾロがにっと笑った。
「・・・バカ。エロ親父・・・」
「おう。何とでも言え」
それっきりナミが顔を赤くして、そっぽ向いてしまったのをゾロは気に留めるでもなく、嬉しそうに酒の杯を進めていた。
そんな彼を横目で見て、ナミは心の中で一つ、溜息をついてからそれでも相反する気持ちを自覚していた。
抱かれるのが怖い。
けれども彼に抱かれたい。
二つの気持ちが複雑に絡んで、ナミの心を占めていく。
壁にかかったカレンダーをじっと見た。
真新しいカレンダーには、1月と2月の日割りが示されている。

2月14日
その数字を食い入るように眺めていると、いつしかゾロがナミのためにグラスを用意して、それに酒を注いだ。

軽く二人のグラスをカチンと合わせて、ナミはその透明に輝くお酒を見て、目を細めてから一気にそれを呑んだ。

(2月、14日・・・)
心の中でゆっくりと口ずさんで、少女はいつしか嬉しそうに微笑んでいた。


---FIN.

8th/Oct/2008 revise, reprint /KMG


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