something GREAT










「本当にお世話になりました。」

少し照れくさそうに、二人の男女が頭を下げた。


「そんな事言わないでください。
 ・・・でも本当に結婚が決まって良かった。
 私が受け持った中でもお二人が一番お似合いだと思っていたの。
 これで結婚までいかなかったら、個人的にもすごくショック受けてたところよ。
 挙式の際にまた当社をご利用してくださいね。
 私もお二人の挙式をお手伝いしたいのよ。どうぞ、お幸せにね。」

少しだけオーバーに、少しだけ瞳を潤ませて、少しだけ親しげに。

いつものセリフを口にしながらナミは内心大きな溜息をついていた。



メリーブライドコンサルティング。

女社長ロビンの経営する結婚相談事務所で、ナミはウェディングプランナーとして働いている。
元々は手作りの式を挙げたいという新郎新婦のために、彼らの希望を叶えるべく、唯一無二の思い出に残る式のコーディネートが目的のために設立された会社だった。

だが、ここ数年ロビンが式のトータルサポートだけでなく男女の出会いから挙式まで、というコンセプトを打ち立てて出会いの仲介業務にも手を出し始めている。社名だけを聞いて、挙式相談ではなく結婚相談に関する問合せが殺到したからだ。

大学卒業後、ウェディングプランナーを目指して就職したこの会社で、ようやく式のトータルコーディネートを任せてもらえるようになった矢先に、事業拡大ということでルーキーのナミは仲介業の担当者にされてしまった。

名刺の『ウェディングプランナー』という肩書を発揮することもなく、今日も今日とて一組のカップルを成立させて、既に体が覚えてしまったお祝いの言葉を演技がかって口にする。

もちろん数ヶ月、長ければ半年ほど客の意思が固まるまで付き合い続けることになる。
何の感慨もないと言えば嘘になるし、自分の仕事が成功したという充実感を最も感じる瞬間でもあることには違いない。

それでもナミはあまりこの瞬間を好きにはなれなかった。

自分の力で恋人すらも作れないなんて、とどこか心の奥底でそう思ってしまう時がある。
そのおかげで自分はお金を稼げるのだとしても、そんなきっかけで出会った二人を心底から祝福しようという気にはどうしてもなれないのだ。




ナミのブースから二人がペコペコと頭を下げながら姿を消した後、ナミは作られた笑顔をようやく潜めて、さも疲れたというように両腕を上げて大きな伸びをした。

と、同時にブース入り口をノックするように軽く叩いて、社長のロビンが顔を出した。



「お疲れさま。少しお話する時間はあるかしら」

「見ての通りよ、ロビン。ちょうど手が空いたとこ」

どうぞ、と軽く言ってナミは机の上に出されていた書類を軽くトントン、と揃えて『済』と書かれたフォルダに入れた。ロビンはそんなナミを見ながら来客のためにナミの対面に置かれた椅子の一つに腰掛けて、ゆっくりと足を組む。最初の一言を考えているのだろう。しばしナミの手元をじっと見詰めた後で、ようやく社長は口を開いた。

「ナミさん。さっきのお客様で何組目だったかしら。カップル成立まで持ち込んだのは・・・」

「さぁ・・・?数えたことないわ。特に最近は依頼も増えたでしょ?」

「そうね。ようやく軌道に乗った、ということね。やっぱりあなたを新事業の担当者にして良かったわ。」

「・・・怪しいわね、ロビンがそんな風に私を誉めるなんて」



ロビンはナミにとって、社長でもあり、また幼馴染でもある。
年齢こそロビンの方が年上だが、この会社を設立した頃からナミはちょくちょく仕事を手伝っていた。
特に結婚式当日になれば人手はいくらあっても足りない。
アルバイトを雇っても、結婚式のタイムスケジュールなど、あってないも同然の話で2時間ほど時間が押すこともある。そのためバイトは長続きしない。
そこでロビンが幼馴染のナミに少しの間だけ入ってくれないかと頼んだのがきっかけだった。

将来、自分の手で他人の大切な記念日を創り上げるこの職業につきたいとナミが思うようになったのはそれからすぐだった。

大学を卒業してすぐ、この会社に入社したことにも何の迷いもなかった。

それも仲介事業担当者になるまでの話だったが。

自分がウェディングプランナーに憧れてこの会社に入った事を知っているというのに、それでも敢えて部署を異動させた社長のロビンに対して多少の嫌味を返してしまったのも仕方ない話。
他の社員が見ている前ではそうできるものでもないが、今は二人きりなのだ。



幼馴染としての特権をフルに活用して、ナミは子供のように口を尖らせて言った。

「誉められても、私の異動願いは取り下げないわ。早く後任の担当者を決めて。
 ロビンも知ってるでしょ?私はウェディングプランナーとして働きたいの。」

「そう?この事業はあなたにぴったりだと思って任せたんだけど・・・
 あなたほど人を見る目に長けている社員はいないわ。
 データだけでなく、直感が必要になることもあるでしょう?
 あなた一人では大変だとは思うけれど、もうちょっと頑張ってちょうだい」

「もうちょっと・・・?どうして?
 この前入った式のノウハウもわかってないような新入社員より
 私の方がずっと客のニーズに合った式をプロデュースできるわ」

フン、と鼻を鳴らす。
本人はさらりと言ったつもりでも、僅かながらに強くなった『ずっと』という言葉に、何故彼女がウェディング事業で、自分が仲介事業なのかという不満が顕になっている。
勿論、ナミとは長い付き合いで姉のように彼女を見守ってきたロビンにもそれはしっかりと伝わって、女社長は少し困ったように首を傾げてからこう言った。

「そうね、知識ではあなたの方が彼女よりずっと上だわ」

何となく引っかかったロビンの言葉は、ナミの顔を曇らせる。

「・・・知識『では』?知識でも、仕事のモチベーションも私の方が上よ。
 ロビン、私ね、いつだって新しいプランを出す自信があるの。
 客にとって一生に一度の記念になるような式を作り出す自信があるのよ。
 それなのに毎日毎日、女に飢えた男とかコンプレックスの塊の女とかばっか
 相手にしてるのは正直きついのよね。
 社長としては、社員の能力を十分に生かせる配置をしてもらいたいわ。」

「・・・・・・・・・・・」


ロビンはただ黙ってナミの言葉を最後まで聞き終えた後に小さく首を振って「まだしばらくは駄目ね」とぼそりと呟いた。

「式も確かに記念だけど、出会いというのも一つの記念に成り得るわよ、ナミさん。
 出会いがなければ結婚なんてできない。
 ・・・それよりも、今日話したいことと言うのはね。
 あなたに部下をつけようというお話なの。」

「部下?後任じゃなくって?」

「そう。部下よ。急なことだけど、来週から新しい社員が入ることになったの。
 本人が早く働きたいと言っているから、今月いっぱいはアルバイトとして。
 来月からは正社員として働いてもらうわ。しっかり仕込んであげてちょうだい。」

(それは、いずれ私の後任に、ということかしら・・・?)

その新入社員が使い物になるかならないかはわからないから、ロビンとしてはそれを口に出すことはできないだろう。
だが、その子にある程度業務を叩き込んでしまえば、ナミはようやくウェディング事業部へ戻れる。もう他に人がいないという理由でこの部署に縛り付けられることはない。
そんなことを思えば、自然とナミの口元は緩んでいった。

「IGね」

「・・・IG?」

ナミの漏らしたその言葉の意味がわからず、ロビンが戸惑うように聞けば、ナミは悪戯っ子のようにふふっと笑った。

「何でもないわ。その件は了解よ。ロビン、ありがとう」

口早にそう言って、ナミは鼻歌まじりにPCに向かって仕事を始めた。

そんな彼女の胸の内もわからぬままに社長は、それでも彼女が機嫌良く承諾したことに満足してブースを出た。




("I"t's "G"reat・・・最高!)

ロビンも自分の願いをちゃんとわかってくれていたのだ。
ナミは、その喜びについいつもの癖で略語を使っていた。

少し前からこれはナミのブームだ。
アメリカで流行っているらしいと聞いて、おふざけ半分で使い出した略語。

これが案外楽しくて、それが通じない相手と話している時は心の中で呟いていた。

I.S.B.と言えばIt's So Bad、最低。
I.A.G.と言えばI Am Great、最高の気分。
I.L.U.はI Love U(You)の略。

もちろん、ブームになるまでもなくHANDと書けばHave A Nice Dayの略なのだということは、英語圏に住む友人が数年前に教えてくれたことで、それは海外では普通のことなのかもしれないが、日本人である自分が日本でそれを使うということは、ある意味暗号を使うような密かな楽しみを味わえるというものなのだ。特に自分が使うそれは、今のところ特定の人物一人に対してだけ。誰にもわからない言葉ほど楽しいことはない。

例えばそれは海外旅行中にはつい大きな声で会話してしまうことに似ているかもしれない。
誰も自分の言葉を理解していないからこそ、周囲を憚るマナーを忘れてしまう。
だが、本音を思うままに話すということほど楽しいことはなく、自国で外国語を話す人に一種の警戒心を持ってしまったり、不快感を持ってしまったと人間だとしても、自分がその立場に立ってしまうとその国では外国語を話す外国人の自分を省みもせずについ大きな声を出してしまう。

自分だけが使っている。仲間内だけに通じる。だからこそ、面白い。

そんな略語を、職場で使うわけにはいかないと思ってはいたのに、ナミはそれを口にした。
ロビンには意味がわからないだろう。

だが、それでいい。

新入社員をしっかり一人前になるまでに教育すれば、自分は元の部署に戻れるかもしれないという打算的な考えを聞けばまたロビンが嫌な顔をするかもしれない。そうと決まったわけではないのだから。

故にうっかり口に出てしまったそれは、一種ナミを助けるという結果になった。



「IG!」

再度呟いて、ナミはくすくすと肩を揺らした。






***************************************






「お帰り、ナミ。今日は早かったじゃない」

開かれたドアの向こうで、長い黒髪を揺らして荷物を準備するラキがぱっと顔を上げてナミを出迎えた。

「一つ仕事が片付いたし・・・それにいいニュースなのよ」

「何。ご機嫌だね。今度こそいい男捕まえた?」

ふっと軽く笑うのはラキの癖だ。

「残念ながらそっちじゃないわ。元の部署に戻れるかもしれないのよ」

あぁ、と呟いて、ラキはまた手を動かし始めた。





ラキとナミはシェアメイトだ。
都心の広い部屋を借りようとすれば、どうしたって家賃が高くなる。
そこでルームシェアをしようと思い立ったナミが一緒に部屋を借りる相手をネットで募集してみたのだが、見もしない相手とのシェアルームなどそうそうしたいと思う人もいないのか、なかなか良い相手がいなかった。そんな中、ついに見つかったのがこのラキ。

フリーのカメラマンで世界を飛び回るラキとしては長期に渡って部屋を借りるわけにもいかない。

家賃ももったいない。かと言って、数ヶ月海外に行くたびに部屋を解約して、また借りてなんてやっていられるわけもなく、ナミに会うまでは友達の家を転々としていたと言う。

ナミとしては、ではまた長期に渡って家を空ける時はどうするつもりなのか、ということが疑問だったが、それはそれ。ラキは広い人脈を持っていて、この部屋から仕事場が近いからどうだとか、引っ越しを考えている人に仮初の家として住めばいいから、と言っては友人の自分の代わりにこの家に連れてきていた。
その友人と言うのも皆女性だし、ラキほど気が合う人はいなかったものの、ラキがいない間、その部屋に住んで家賃はきちんと払ってくれているわけだし、相手も家賃半額で広い部屋に数ヶ月とは言え住めるということに満足も覚えるらしく、皆数ヶ月暮らした後にはご機嫌な顔で別れを告げていく。

そしてそれはナミ自身の人脈ともなって、ナミはこの状況に満足していた。




明日からまたどこかの国へ行くからと荷造りをするラキの背に向かって、スーツから部屋着に着替え終わったナミは今日ロビンから聞かされた話に時折自分の憶測を交えて話した。


「ふぅん。じゃ、私が帰った頃にはもう愚痴ってばっかのあんたはいないってわけだ」

「帰るって・・・今回は3ヶ月だった?そんなに早くには無理かもしれないわね。
 でも、そうと思えば、今の仕事もそんなに辛くならないわ。
 今日だってサクサク終わらせちゃったしね。
 それより、今夜は新しい人が来るんじゃなかったの?」

「ああ、今から連れてくるって連絡がさっきあった。」

「連れてくる?誰が?」

「今回はね、ワイパーの知り合いなんだ。この近くで働いてるんだけど仕事がすごく忙しいから、この辺りで部屋を探してるって言ってたらしくてさ。それでワイパーが私がしばらくいなくなるって話を思い出して、ここを紹介したってわけ。」


新しい人、というのは勿論ラキがいない間にこの部屋に来る人物のことだ。
奔放でサバサバしているラキは案外律儀な面もあって、必ず自分がいる時にナミとその相手を引き合わせて、もしもナミが嫌なら断ってもいい、と事前に言ってくれる。
そんな彼女の性格をここ数年で把握したナミとしては、ラキを信じて今回は一もニもなく、詳しい話を聞く前から「誰でもいいわよ」なんて快く了承した。

だが、それがラキの友人ではなく、ラキの彼氏でもあるワイパーの知り合いだと聞いて、初めてナミの心に数年来忘れていた新しいシェアメイトへの警戒心が膨らんでいく。

「仕事ね・・・何してる人なの?」

「弁護士だって。ワイパーとは同じサークルの仲間らしいけど・・・」

「弁護士?」

それを聞いたナミの瞳がきらっと輝いた。

「こらこら。今、男を紹介してもらおうと思った?ほんと、あんたってば・・・」

呆れたように肩を竦めてラキが笑った。




ナミの夢は『玉の輿』だ。

そのために自分をキャリアを磨いていると言っても過言じゃないかと、傍から見たラキに思わせるほどに『高収入』な男に目が無い。
いや、高収入だけでナミは満足しない。顔も、性格も、体の相性も、全ての条件を満たす男を探すのがナミのプライベートでの唯一の趣味とも言えるだろう。

ラキにとってはそれこそ理解できないが、どこで知り合うのか医者と付き合っては「話し下手だ」と言って別れ、教授と付き合っては「世間を知らなかった」と別れ、自分が紹介したカメラマンと付き合った時には「女にモテすぎる」とこともなげに言い放って別れた。

つい最近は「サラリーマンだって、将来はどうなるかわからない」と至って真面目そうな人と付き合っていたが、一度ベッドを共にした次の日、「セックスの相性が悪かったのよ」とあっさりと彼と別れてきたと言ったのだ。

彼女曰く、最高の結婚式を挙げるためには最高の相手と、これが最初で最後という思いが重要なのだと言う。

ウェディングプランナーとして色んなカップルの結婚式を普通の人よりも多く見てきたナミだからこそ、結婚相手選びに余念がなくどんなチャンスも自分のものにするために我武者羅に恋の道を突き進むナミはラキとは違うところでその信念を強く燃やす夢追い人ということだろうか。



(ま、それでもあたしはそんなあんたが好きだけどね)

苦笑しながらラキは既に『弁護士』のシェアメイトにどんな男を紹介してもらおうかと画策しているナミを見ていた。





「弁護士ってことは・・・判事とか、検察とかにも知り合いがいるのかしら?法曹界って一種独特でなかなか近づけなかったのよ。ほら、お堅いイメージもあるじゃない?さすがラキね。そんな人を紹介してくれるなんて!」

「だから。あたしも知らないんだよ。『うまい酒呑もう会』のメンバーだってさ」

「『うまい酒呑もう会』?
 ・・・また随分と親父じみたサークルね。女の子にしては珍しいけど・・・」

「けど、あんたとも気が合うだろ?」

そうね、と酒豪のナミは嬉しそうに笑う。

「いい晩酌相手が出来たからって、彼氏探しを怠らないといいけどね」
「あら。私がそれを忘れると思う?」

二人が大きな口を開けて笑ったところで待ち人の来訪を知らすチャイムが鳴り響いた。


ラキがようやく詰め終わった荷物の鞄を自分の部屋に放り込むように投げ入れて、玄関へと向かっていく。

しばし、ラキと話す男性の低い声をナミは多少の期待感を交えて何の気なしに聞いていた。
ふと気付けば、明日にはもう日本を出てしまうラキと話すのも今晩が最後という思いも手伝ってか、ご飯も食べないままに彼女と話し込んでいた。

ナミもラキも定時に帰れるおうな仕事ではない。

食事ばかりは二人、それぞれ食材を買い込んで好きな時に料理する。

余ればもう一人に食べてもらうこともあるし、食材を買い忘れたら同じ屋根の下で食物の売買が行われる。それは例えば明日の朝食のパンを買い忘れた、とナミが言えばラキが一枚10円なんて破格の値段でナミに自分の食パンを食べることを許したり、ラキのコーヒーが切れたと聞いたナミが一杯50円でどうぞ、なんて言って自分のコーヒーの粉を使うことを許したりと、何ともまあ大雑把なものではあるが、それでも部屋をシェアする上で大切な感覚だ。

今日はあまりに浮かれていて買い物をしてくることを忘れてしまった。

ご飯を作れるだけの食材はあったかと冷蔵庫や棚を覗いてみたが、明日から長期に渡って不在となるラキのスペースにも、その隣の自分のスペースにも目ぼしい物は何もない。

コンビニにでも行こうか、と思ったその時、ラキが困った様子で玄関から戻ってきた。


「ナミ、あのさ・・・───」

気風のいいラキらしくもない。
少し言葉を濁して、眉をひそめたシェアメイトを見てナミはつい瞬きをしてしまう。







「ごめんっ!」



両手をパンッと合わせたかと思えば、頭を深々と下げてラキが謝った。


「な、何?どうしたのよ、いきなり・・・」

「それが・・・ワイパーが連れてきたってのが・・・」

ごくり。



ラキの表情にただならぬ気配を感じて、ナミは次の言葉を待って生唾を飲み込んだ。









「男だったんだ」



















ふっ。






軽い笑みが零れて、沈黙を破った。





「じゃ、帰ってもらえばいいじゃない。さすがに男なんてここに置けないわ。そうでしょ?」

何をそんなに悩むことがあるの、とばかりにナミは一笑して言葉を続けた。

「そんな変なサークルに入ってるって言うから、おかしいとは思ったのよね。
 でも、仕事のためだけにここに住みたいって言ってたんでしょ?
 ってことは、家がないわけでもないし・・・その人も帰る場所があるじゃない。
 シェアメイトがいないのは辛いけど、そういうことならしょうがないわよ。
 そんなに気にしないで、ラキ。あんたのせいじゃないわ」

「それがさ。ここにいる間に、この近くの部屋を探そうと思ってたらしくて、
 もう前の家を引き払ったって言うんだ。今は、事務所に寝泊りしてるけど
 さすがに毎日銭湯に通うのが嫌だって・・・───」

みるみる内にナミの顔が引きつっていくことをちらちらと見ながら、ラキは説明を続けた。

「それにね、相手はそれでもいいって言ってるんだ。
 そのさ・・・シェアメイトが女だってわかってて、それでもここに住みたいって言ってる。
 今、玄関で待っててもらってるけど・・・」

「・・・ちょっと待って。じゃあソイツ私が女って知ってて、それでもここに住もうとしてるの?
 そんな変態ってわかったら、余計に置けないわよっ!」







「変態で悪かったな」






ラキの後ろから突然現れた男が初対面だと言うのに全くもって不遜な態度で見下ろすようにナミを見て、言い放った。


Next >>

back to TOP