一年後の彼ら



1



砂漠の国、アラバスタには国民に愛される王女がいる。

ネフェルタリ・ビビ。



十人中十人が口を揃えて「美しい」と賛辞の句が口に出るであろうその美貌とは裏腹に彼女は強い意志を持つ少女だった。

まさにお転婆娘という名がぴったりの彼女は、今日も単身どこかへ出かけてしまったらしく宮殿はいつものことながら、その捜索でざわついていた。


「見つかったか?」

そう言ったのは、彼女の父親であり、またアラバスタを統べる国王コブラ。

「いえ、宮殿内にはどうもいらっしゃらないようで・・・」
イガラムは、頭を振って答えた。

二人の口からため息が落とされる。


「またか・・・」
「ええ、おそらく」




実は、ビビがどこへ行ったのか、おおよその検討がついていた。

「仕方あるまい、ペルに追いかけてもらおう」
「そうですな」

また、はぁと肩を落として、彼らはペルを探すために歩き出した。









首都アルバーナの西南。

サンドラ川の川向こうにオアシスがある。

クロコダイルによって、壊滅状態にあったその町の名はユバ。


あの戦いから一年経った今、復興作業はおおよそ終了段階だった。
町としての機能をほぼ回復し、また色んな町にはさまれた要所でもあることから町は再び賑わいを取り戻していた。

その復興に携わった者は反乱軍として闘った青年達がほとんどだった。
彼らを束ねるリーダーの名はコーザ。

この町を作った代表者の一人、トトの息子である。

反乱軍を率いた者として、当然の処罰を覚悟していた。
しかし、その彼に国王はユバの町の復興を委ねた。

期待に応えるため、コーザは体中の傷が癒える間もなく
復興事業を精力的に行った。

それ故、今では町の代表格として、ユバの民からも慕われる存在であった。


「ん?」
飛来する鳥に気付き、コーザが空に視線を投げかけたその時
大きな鳥が人間に変わった。

「ペルか」

「コーザ久しぶりだな」

王宮の親衛隊長ペルは、コーザとも顔見知りである。


「ああ。今日は視察か?」

「いや、ビビ様を探しに来た。
 こちらに来ているかと思ってな」

「いや・・・?」

「いらっしゃらないのか?」

ペルはそう言って、また獣型に変わり
「では私は別の町を探すとしよう」と、飛び去った。



コーザは深く息を吐く。

「・・・・ビビ」

「どうせ、その辺に隠れてるんだろ」




木陰から、ひょこっと空色の髪の少女がその愛らしい顔をのぞかせた。

「バレてた?」
「お前なぁ・・・」
「だって、せっかく来てもいつもペルが探しに来て
 すぐ帰る羽目になるんだもん」
「当たり前だろ。
 お前、曲がりなりにも一国の王女なんだぞ。
 護衛もつけないで、フラフラと・・・」
「護衛ならいるわ。」
「・・・?」
「リーダーが私を守ってくれるもの」

そう言って悪戯っ子のように微笑んだ少女に、コーザはもう掛ける言葉が見つからなかった。


「リーダー?」

黙りこくってしまったコーザを見て、ビビの表情が翳る。

「私が来たら邪魔だった・・・?」

コーザは何も言わずにその場を去ろうとする。

「リーダー・・・」


「早く来いよ。
 作業を手伝いに来たんだろ」

頭を掻きながら、コーザがさらりと言う。

「・・・うんっ!」

ビビは、先ほどとは打って変わった明るい笑みを浮かべて元気に駆け出した。

青空に一羽の大きな鳥がゆっくりと町の上を旋回してからコーザとビビの姿に目を細めて、アルバーナへと飛び立っていった。