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この状況は非常に耐えがたい。
愛しい女が酔って、自分の腕にいる。

時は夜。

彼女は幸せそうにそっと自分の胸に身を寄せる。
体が熱いのは、彼女の熱なのか自分の熱なのか・・・


何とか理性を保とうと、心の中で叫ぶのだが
自分もお酒が入っていて、如何せんこのまま…という気持ちも捨てがたい。


本当なら抱きたい。

今朝、彼女と想いが通じ合ってから、頭の片隅にあるその妄想は決して消えない。
今までそれを思わなかったのが不思議なくらいに。
相反して、今朝初めて心が通じ合って、初めてキスをしたこの愛しい彼女に
まだそこまでを求めるのはいけない、もっと時間をかけて
彼女がそうしたいと思えるまで、大切にしたいという気持ちもある。


しばらく、心の中で葛藤しているうちに、ふと彼女の体が重くなったことに気付いた。



おそるおそる顔をのぞきこむと、彼女は自分の胸にもたれて
すぅすぅと寝息を立てていた。





ふぅ・・・と、つい安堵の吐息が出てしまう。

とりあえずは、大切な彼女を汚さずに済んだことと、
少し残念な気持ちが織り交ざってため息を漏らしてから
ワイパーは彼女を自分のベッドに寝かした。



これからどうするべきか?

たしか、彼女は父親と二人で暮らしていると言っていた。

大事な一人娘が夜遅くに一人暮らしの男の家に来て
酔わされた(おそらく、彼女の父にはそう映るだろう)と知っては
彼女の父親が激怒するのは必至である。

シャンドラの戦士ならば、決闘に至っても仕方がない状況。

だが、ワイパーは彼女の家を知らない。

しばらく思い悩んだものの、結局何とか彼女を起こすしか手はないという結論に辿り着く。


水を一杯用意して、その逞しい片腕を寝ている彼女の背中にまわし体を起こす。
「水だ。飲めるか?」と聞くと、彼女の目がほんのわずかに開いた。
「・・・はい」弱々しい返事がその唇からこぼれる。
彼女がコップを落とさないように、自分の手も添えて飲ませると、
つ・・・と彼女の唇から水が一筋落ちていった。



扇情的なことこの上ない。



ワイパーは眉をひそめる。

それは、自分の気持ちを抑えるため。





水をコクリと飲み込んで、コニスの瞳に焦点が戻ってきた。


「あ・・・私、酔ってしまったんですね。
 ごめんなさい・・・」

先ほどより少しだけ気を取り戻したように見える。

ワイパーもほっとした。
もしも、彼女がこのまま寝てしまったら・・・?

自分は自分を抑えきれなくなるのが目に見えているのだ。

「・・・家まで送ろう。立てるか?」
「あ、あ、あの・・・大丈夫です。
 一人で・・・帰れますから」

ワイパーの言葉を聞いて、さらに頭が冴えたらしい。


彼女は慌てて身を起こした。

自然とお互いの顔が近づく。



ワイパーは何も言わずに彼女の唇を自分の唇でふさいだ。


さっきよりも少しだけ激しく。
それでも、彼女を怯えさせないように、やはりついばむようなキスで。
唇を離すと、無性に落ち着かない。

そのやわらかい唇にもう一度触れたいと願ってしまう。


「ワイパーさん・・・」

コニスの声もどこか名残惜しいような切ない声だった。



いけない。

止まらなくなる。


頭ではそう思ったのに、体はそう思うよりも早く、彼女の唇を求めていた。


さっきより激しく。

彼女の体を抱き寄せて、その唇を激しく吸う。

「・・・んぅ・・・ふ・・・っ」

コニスの唇から漏れる甘い吐息は尚一層、自分の心を掻き立てるものに他ならない。

「・・・はぁっ」

彼女が息をしようと軽く口を開いた瞬間に自分の舌を入れる。
最初は、優しく彼女の舌を自分の舌でなぞる。

すると、彼女の舌も控え目にそっとそれに応える。

そのうち、二人の舌が絡み合って、何度も何度も角度を変えては
彼女の唇を貪るように口付けを交わした。



荒い息を吐きながら、彼女の顔からようやく離れた頃には
どれほどの時間が過ぎた後だっただろう。


彼女の顔はすっかり上気して、とろんとした目からは涙が一筋流れていた。




はっとして、さらに顔を離す。

「・・・わ、悪い・・・」

顔を真っ赤にしてその一言を口にすると、コニスは微笑んで、彼の首に腕を回した。

「うれし涙です。」